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出口政策にも雨宮理事の力が必要か

久保田博幸金融アナリスト

日銀が異次元緩和を決定した際の軍師と言える雨宮正佳理事の再任が有力になったと伝えられている。雨宮理事は2010年に理事に就任した。日銀理事の任期は4年(日銀法第二十四条)となっており、任期は6月2日までとなっているが、理事は再任できる。日銀政策委員会の推薦に基づき、財務相が任命する。

ただし、新日銀法となってからの理事の再任は、中曽現副総裁が2012年11月に国際担当理事に再任された例があるのみ。極めて異例とされるが、雨宮理事の異例と言える再任はある意味、当然の如く認識されている。

昨年4月4日に日銀が量的・質的緩和政策を打ち出せたのは、雨宮日銀理事の功績が大きいとされている。黒田日銀総裁が就任したのが昨年3月20日である。そこから黒田総裁としての最初の4月の決定会合まではあまりに時間がない。黒田氏は財務省出身であり、日銀総裁の前はアジア開発銀行総裁であり、日銀のプロパーではない。生え抜きではない社長が提携している先からやってきたようなものであり、新会社のひとつの業務にしか過ぎない金融政策だけでなく、社長としての業務を含めて極めて多忙となる。これが日銀のプロパーであったとすれば、早期に動くことも可能であった。その例として総裁就任後、すぐに臨時の金融政策決定会合を開いた日銀プロパーの福井元総裁の例がある。

アジア開発銀行総裁と言う要職にあり、引き継ぎ等でも多忙を極めていたと見られる黒田総裁が短期間では動けまいと私は見ていたが、これは結果として見誤った。黒田総裁就任と同時に大阪支店長から本店に呼び戻され、再び金融政策運営を担当する雨宮理事の軍師としての力量を計算に入れていなかった。

秀吉の一夜城ではないが、短期間のうちに秀吉と官兵衛ならぬ、黒田総裁と雨宮理事は異次元緩和と呼ばれた政策を立案したとみられ、さらにそれを最初の決定会合で全員一致で決定させると言う離れ業をやってのけたと思われる(念のため、金融政策は合議制で決められるものではあるが)。この政策の原作立案は安倍首相であり、それに100%答えた格好になった。

その後の日銀は円安・株高の流れに加え、円安を背景として市場予想を上回るペースでの物価の上昇があり、市場からの追加緩和の要求は何のその、戦力の随時投入はしないという方針を貫き通した。このあたり、日銀が、いや黒田総裁と雨宮理事にとっても想定以上の結果であったのではなかろうか。

この日銀の働きについては当然、官邸も多いに評価しているとみられ、デフレ脱却の道筋をつけたとされる雨宮理事への評価も高いのではなかろうか。その意味では、雨宮理事の再任は異例どころか当然とみられてしかるべきである。

それに無理矢理なことをやってしまった後片付けも雨宮理事の仕事であるはず。出口政策は表面上は封じている日銀ではあるが、目標通りに物価が上昇しているかに見える以上、1年後にコアCPIが2%に到達した場合のシナリオも想定する必要がある。

FRBのテーパリングのように、市場の動揺を抑えながらの出口に向かう政策ができるか。米国債の利回りの多少の跳ね上がりは市場では許容範囲となったが、日本国債については日銀の出口政策に向かう際に利回り上昇が果たして抑えられるのか。

これはかなり困難な仕事ともなる。日銀の公表文から「15年近く続いたデフレ」との表現が削除されたが、その15年間は、デフレもおおいに影響し、長期金利が超低位で安定していた時代でもあった。その15年間の間に日本の国債残高は3倍近くに跳ね上がっている。このような状況下で長期金利がもし2%を超えるだけで、債券市場参加者には見たことのない世界が広がることになる。

そこでの日銀の舵取りは、本能寺の変の連絡を受けた時の秀吉軍の状況のようなものとなるかもしれない。正常化に向けての大返しが可能なのか。日銀にとって出口政策を取る際の国債市場動向が大きなキーポイントとなり、それに立ち向かうためにも雨宮理事が必要とされるのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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