ECBの追加緩和観測の背景
3月6日のECB政策理事会での追加緩和観測が出ている。ECBのドラギ総裁は、ECBは行動する準備が整っているとの発言を繰り返しており、さらに23日にはシドニーでのG20終了後、3月6日にフランクフルトで開く次回会合までに「行動の是非を判断する上で必要な十分な情報」を得るだろうと述べた。
24日発表された1月のユーロ圏消費者物価指数(改定値)は前年同月比0.8%の上昇となり、1月31日に発表された速報値の0.7%から上方修正された。ただし、インフレ率は引き続き1%未満にとどまった状態が続いている。
24日には2月のドイツ企業景況感指数も発表されたが、こちらは予想に反して改善されていた。少し遡って、2月14日に発表された2013年第4四半期のユーロ圏域内総生産速報値は、前期比プラス0.3%、前年比プラス0.5%と予想を若干上回っていた。
ここにきてユーロ危機時に7%台をつけていたイタリアの長期金利は3.5%台に低下しており、危機対応となる政策からは脱却をはかる必要がある。ただし、すぐに引き締めに転じることはなく時間を掛ける必要がある。そのためにECBは昨年7月にフォワードガイダンスを導入し、主要政策金利を「長期間にわたり現行水準もしくはそれを下回る水準」に維持する方針を表明した。
危機からは脱却しつつあり、ユーロ圏の景気も底打ちしつつある。しかし、その回復のテンポはゆっくりであり、ここでその回復に水を差すような利上げ等は当面は行えない。特に市場で利上げ観測等が出てしまうと、株価の下落などを招きかねず、金融引き締めのサインは極力出さずに、緩和基調が続くことを示す必要がある。
その緩和政策を続ける理由として、物価が落ち着いていることも指摘される。ただ、ECBが目標に置いている(インフレターゲットではない)2%と言う物価目標からは、かなり低い水準にある。
ユーロ圏でのデフレ懸念等も市場では指摘されているが、ドラギ総裁は、デフレの兆候は見られないとも発言しており、日銀のようにデフレ脱却のためとしての追加緩和の可能性はむしろ低いと思われる。
その日銀の黒田総裁がG20での会見で次のような発言をしていた。デフレに関しては人一倍気になっている中央銀行がこのような発言をしたということは、ECBがデフレ懸念で動くということは考えづらい。
「ユーロ圏のデフレ懸念云々の話につきましては、ユーロ圏の物価上昇率自体が下がっていることは事実ですけれども、ご承知のように、ユーロ圏の経済も底を打って持ち直しています。また、インフレ期待は、目標の周りに比較的アンカーされていることから、一般的に、ユーロ圏がデフレに陥る可能性が高いと見られている訳ではないと思います。」(日銀サイトのG20終了後の黒田日銀総裁の発言要旨より引用)
それでも市場ではECBの追加緩和観測が出ている。特に新たなリスクが出ているわけでもないところに、貴重なカードを使う意味がどこにあるのか。G20後にECB理事会メンバーのビスコ・イタリア中銀総裁は、必要ならマイナス預金金利を検討する用意があるとも表明した。
これは市場に対する見せ玉ではないかと思われる。ドラギ総裁の準備発言も同様で、行動するのであれば引き締めではなく緩和となることを印象づけ、利上げ等を意識して先回りして動くようなことはなきよう市場に牽制球を送っているのではないかと思われる。それでももし3月6日に追加緩和が決定されるとするのであれば、何かしら別の要因がある可能性がある。