日銀の追加緩和観測が後退
ここにきての円安調整というか円が底堅くなりつつあるのは、米国のルー財務長官による円安形成発言とともに、日銀の追加緩和への期待が後退したことによる影響も大きいと思われる。ここ数日、特に材料も出ていないにも関わらず、円が売られ日経平均先物が買われていた。短期筋の仕掛けと思われるが、その背景に日銀の追加緩和観測があった可能性がある。
こと金融政策に関しては、債券市場の関係者と、株や為替の関係者には多少の温度差が存在するようである。債券市場関係者にとって、追加緩和に対しての期待はさほど強くはない。むしろ余計なことはやってくれるなとの意識も強い。国債の需給はそれでなくてもタイトとなり、国債の流動性も一時よりは回復しつつあるとはいえ完全に回復してはいない。景気も回復過程にあり、追加緩和に期待を持つような状況にはない。
これに対して円安・株高のトレンドを維持させるためにも、外為市場や株式市場の関係者からは追加緩和への期待は強いと思われる。消費増税は確実に日本経済を悪化させる。政府の経済対策とともに、悪影響を事前に防ぐための予防的措置としての追加緩和期待もあるのかもしれない。
債券市場というか金利に関する関係者と株や為替の関係者の間での認識のギャップの背景には、実務の上での日銀との距離感が影響している可能性がある。短期金融市場は日銀とかなり深く関わっており、伝統的な金融政策は金利の操作にあるので当然といえば当然ながら日銀の動向が大きく市場に影響を与えている。債券市場も裏を返せば長期金利を決定している市場であり、非伝統的な金融政策は国債の買入が中心となり、その意味でも日銀との距離は近い。
だから債券市場関係者の見立てのほうが正確と言うわけではないが、比較的冷静に見ている面もあるのではなかろうか。さらに外部環境も日銀による追加緩和の可能性を後退させているとみておくべきではなかろうか。
現在の日銀が望む市場の姿は、円の下落基調が続き、株式市場は上昇基調を続け、国債の利回りは抑えられたままというものであろう。2012年11月のアベノミクスの登場以来は、まさにその理想的な姿となっている。景気も回復し、物価も市場関係者の予想を超える上昇となっている。もしこのような理想型とならなければ、日銀には追加緩和期待が強まっていたことも予想される。日銀は戦力の随時投入はしないのではなく、しなくても良い地合が続いたといえる。
日銀にとって理想的な状況が続いたのは、アベノミクスによるものが中心ではないと私はみている。すでにFRBが量的緩和の縮小を決定しているが、その背景にアベノミクスがあったわけではない。安倍氏の発言が円安調整のきっかけを作ったことは確かであり、追加の財政政策も景気の下支えとなったことも確かである。しかし、現在の世界的な景気回復はアベノミクスによるものではない。その恩恵に日銀というか日本も与っているに過ぎない。つまり世界的なリスクが後退し、景気も回復している過程にあり、このような状況下で日銀が追加緩和を行うことは考えづらい。
22日の黒田日銀総裁の会見においても、消費増税の影響はさほど大きくはなく、基調的には緩やかな回復を続けていくとし、CPIについても半年程度1%台前半という水準が続いたあと、目標としている2%に続くとしている。当面のCPIについては、民間のエコノミストなども1%台前半で当面推移するとの見方も多い。その後の見方は日銀とギャップがあるが、それでも少なくとも半年の間は、物価目標が達成できなそうだから追加緩和をするということも考えづらい。
日銀の追加緩和については、まったくないというわけではないが、現在の良い環境が維持されている限りにおいて、少なくともあと半年程度は日銀が動くことはないのではなかろうか。ただし、まったく新たなリスクが発生した場合にはその限りではない。