ルー米財務長官の円安牽制発言は要注意
アメリカのケネディ駐日大使が、和歌山県太地町で行われているイルカの追い込み漁について「非人道性を深く懸念している」として反対する立場を表明し、ツイッター上で大騒ぎになっていたようだが、16日のルー米財務長官の発言も要注意である。
米国のルー財務長官は16日の講演において、日本経済に関し「為替に過度に依存すれば長期的な成長はない」とし、日本の為替政策を「注視し続ける」と述べた。
ドル円の動きを確認してみると、アベノミクスが登場前の2012年10月あたりまでは、80円割れとなっていたが、そこから急速に円高調整が入り、2013年5月に103円台をつけたあと、いったんドル売りが入りドル円は6月に95円を割り込む。その後は三角持ち合いとなり、それが頂点に達した昨年11月あたりから再び円安の動きを強め、2014年に入り年初に105円台に乗せた。しかし、次第にドルの上値が重くなり、1月20日に104円を割り込んでいる。
16日のルー財務長官の円安牽制は唐突のように受け取られたようではあるが、急に米国政府の意向が変化したわけではない。
昨年2月のG7の共同声明を巡る解釈を巡り、明らかに日本政府からの為替に関する発言に変化が生じていたことに注目したい。このときのG7には、ルー次期財務長官は議会での承認を待っている段階であり、代わりにブレイナード財務次官が出席していた。ブレイナード氏は次期FRB理事の指名を受けている。
この際に、匿名のG7関係筋が「G7声明は誤って解釈された。同声明は、円の過度な動きに対する懸念を示すものだった。G7は円の一方的なガイダンスを懸念している。」としていたが、この匿名のG7関係筋はブレイナード財務次官ではないかとみられている。
本来であれば、財務長官が出席すべきG7であったが、ルー氏が財務長官として出席できない状況にあり、その意向がブレイナード財務次官に伝えられていた可能性もありうる。そもそもブレイナード氏個人の意見が出されたことも考えづらい。ブレイナード財務次官はこの際に「為替相場は市場が決めるというのは先進国間のルールだ」と述べていたが、これは明らかに日本政府への牽制と言えた。
先日のルー財務長官の発言は、ある意味、公式に日本に対して円安政策に釘を刺した格好となる。12月のFOMCでテーパリングが決定されたが、日銀には追加緩和期待すら出ている。このため、金融政策の観点から見れば円売りドル買いの動きが強まりやすい。だからこそ、今年始めにドル円は105円台まで上昇したといえる。
日本政府は昨年のG7以降、為替に関する発言にはかなり慎重になっており、ルー財務長官に釘を刺されるような日本政府関係者からの発言等はほとんどみられない。しかし、ここにきての日本の景気回復や物価の上昇には円安による影響がかなり大きいことも確かである。安倍首相は「景気回復を全国に届ける」と述べるなど、デフレ脱却に向けた姿勢をあらためて見せたが、それには円安以外に効果的な政策が現状は見当たらない。そのあたりも意識されてのルー財務長官による発言であったようにも思われる。
16日のルー財務長官の円安牽制発言はすぐには影響を与えなかったものの、これをきっかけにいったん円安のトレンドが変わる可能性がある。まもなくFRBもトップが入れ替わる。為替市場ではこのFRBと日銀の金融政策を重視していることもあり、今後のドル円の動きは要注目となりそうである。