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日銀の国債買入目標はフローかストックか

久保田博幸金融アナリスト

まもなく今年も終わろうとしており、来年の動向も気になってくる頃でもある。そのなかで日銀の国債買入について、来年は毎月の国債買入額が減少することが明らかとなり、一部では日本版テーパリングかとの報道もあった。

そもそもテーパリングとは、FRBが量的緩和で買い入れている国債の量を削減して、最終的にはゼロに持っていこうとするものである。つまり非伝統的な金融政策の脱却を意味するものである。仮に日銀の毎月の国債買入が技術的な要因で多少削減されても、それはテーパリングと言えるものではない。FRBのように緩和政策から向きを変えるわけでは全くない。

しかし、このあたり市場に混乱を与えかねないことも確かである。その原因を作ったのも日銀である。大胆な国債買入を演出しようとあまりに、FRBやイングランド銀行の量的緩和のいいとこ取りをしようとした。イングランド銀行の量的緩和の目標は、国債を主体に買い入れる総額の規模とした。それに対してFRBが行ってきたのは毎月の国債の購入額を決めるものとなった。

今年4月4日に決定された量的・質的金融緩和策(QQE)では、長期国債の保有残高が年間50兆円に相当するペースで増加するよう買入を行うとした。長期国債の買入対象を40年債を含む全ゾーンとし、買入の平均残存年数を現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長する。「この結果」、毎月の長期国債のグロスの買入額は7.5兆円規模(これまでは3.8兆円程度、4月の買入予定額は6.2兆円)になる。2013年度の長期国債のカレンダーベースの発行予定額は126.6兆円となっており(年間発行額156.6兆円から短国の30兆円を差し引いたもの)、7.5兆円の12か月で88.7兆円をグロスで日銀が購入するとなれば、毎月の発行額の70%を買い入れることになる。

日銀はコアCPIの2%という物価目標に対して、2年程度の期間を念頭に置いて、早期に実現するため、マネタリーベース(現金通貨と日銀の当座預金残高)および長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍程度とし、長期国債の平均残存年数を現行の2倍以上にすると、2という数字を強調した。その結果、毎月の国債買入も2倍規模となった。

ところが国債には償還がある。異次元緩和以前では別枠での買入で中短期債を大量購入していたこともあり、その分の償還に見合う買入もかなり含まれていた。しかし、国債の買入対象が超長期債まで延びて日銀の買い入れる平均残存年数も3年弱から7年程度となれば、その分償還見合いで買う国債は減少する。つまりストックについては目標に変化がなければ、フローで買い入れる国債の量は必然的に減少する。

果たして中央銀行の国債を主体とした資産買入は、フローで見るべきなのかストックでみるべきなのか。FRBはMBSの買入も行ったように住宅ローン金利の抑制も大きな目的であり、またECBは南欧諸国の国債市場の安定化を図るために、買い入れる国債の量がポイントとなっていた。これに対してイングランド銀行は景気への影響を重視して保有額を目標としていた。

それでは日銀の異次元緩和の目的は何であったのか。それは物価の上昇である。国債を大胆に買って物価を上げるというまさに「異次元」の発想の元の緩和策であった。それには期待に働きかけるというのが重要だそうで、別に大胆であればフローであれストックであれ、あまり関係はないように思われる。

黒田総裁は12月20日の会見で、「長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」ということを強調していた。4月の異次元緩和の決定に際しても、長期国債の保有残高ありきで毎月の国債買入が結果として7兆円規模になるとしており、ストックを重視していたことも確かであり、フローはそれほど意識したものではなかったはずである。ただし、黒田総裁は「現在の買入れのペースが大きく変わるとは考えていません」とも会見で発言していたことで、もし仮に現在のペースでの国債買入を維持させるとなると、事務方はなかなかの難題を突きつけられることにもなりかねない。

いずれにせよ、そもそも日銀の国債買入のターゲットがストックであれフローであれ、それがどのような経路で物価上昇に結びつくのか、そこがそもそもはっきりしていない。日銀がしっかり説明すべきはむしろこちらにあるような気がするのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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