来年度の国債発行額
11月22日に財務省で開催された国債市場特別参加者会合(第53回)の議事要旨が財務省のサイトにアップされた。国債市場特別参加者会合とは、国債市場特別参加者制度に基づいて開催されるものである。国債市場特別参加者制度とは日本版のプライマリー・ディーラー制度と言えるもので、プライマリー・ディーラー制度は、指定を受けた証券会社や銀行に対し、一定の規模の国債の入札や落札、市場の状況等の報告が義務付けられる代わりに、一定の優遇措置が認められる制度である。その優遇措置のひとつが財務省と直接対話が出来ることであり、それが行われる場が国債市場特別参加者会合となる。
毎年11月の国債市場特別参加者会合では、翌年度予算に伴う国債発行計画について話し合われる。財務省の市場参加者との対話が行われるようになり、国債発行計画について財務省が一方的に決めるのではなく、市場参加者と意見を交換しながら進めるようになった。このため、たとえ翌年度の国債発行額が大きく増加するとしても、市場参加者がそのための安定消化のために案を練ることになり、それはつまり市場での増発ショックを和らげることになる。対話が行われて以来、国債増発等による債券市場の急落といった事態はほとんど発生していない。それだけの買い手がいるということもあるが、マーケットにサプライズを与えない配慮がされていることも大きい。
前置きが長くなってしまったが、今回の国債市場特別参加者会合でも、現時点で分かっている範囲での来年度の国債発行計画に関する財務省からの説明があった。
「発行根拠法別発行額としては、建設・特例国債については「前年度を上回らないよう、最大限努力する」とした中期財政計画に沿って、予算編成作業が進められている。借換債については、26年度概算要求では約120兆円を要求しており、現時点では、今年度より約8兆円上回る見込みである。財投債については、26年度財投計画の規模等により、今後決まることとなる。しかし、平成15年度から16年度にかけて約5兆円増加した10年債の財投債が償還を迎えるため、その分は自然体で増加する点に留意が必要である。なお、年金特例国債(24・25年度:2.6兆円)は、来年度は発行しない。また、復興債については現時点で申し上げられる点はない。」
最も注目すべき新規国債(建設国債と赤字国債)については、税収の上振れ予想もあり今年度を下回るとの報道もすでに出ていた。借換債は今年度より8兆円上回り、財投債も償還分の乗換もあり、増加される見込み。ただし、年金特例国債はないとなれば、その分、今年度よりも消化余力が出る。
「消化方式別発行額としては、今年度に発行した国債のうち約5兆円は前年度補正予算のために発行したものであるが、来年度はこのような特殊要因がないことから、その分余計に消化余力が生じることとなる。さらに、足元では第2非価格競争入札が好調であることなどにより、25年度中に発行する前倒債が発行予定額より上振れており、限度額(20兆円)一杯まで発行される見込みである。この上振れ額の大半は26年度の消化余力となる。日銀乗換については、最終的には日本銀行の決定によるものではあるが、今後、当局として要請内容を検討していきたい。個人向け販売分については、足元では堅調に推移していることなどを踏まえて、来年度の発行予定額を検討していきたい。」
今年度の補正における国債増発は回避されるため、約5兆円程度が今年度に比べて消化余力となる上、今年度の前倒債が限度額一杯(20兆円)発行されるとなれば、そこから必要に応じた調整が可能となる。日銀乗換は日銀の大量の国債買入との影響も意識しなければならない。償還額が増えれば短期国債の引受は増加する。しかし、その金額は今年度が昨年度並みに抑えらたことで、来年度も同様となるのではなかろうか。個人向けは12月から10年変動、5年固定が毎月発行となることもあり、多少、予定発行額は増加されるのではなかろうか。
借換債、財投債、前倒し発行、第2非価格競争入札、日銀乗換等々、それぞれ詳しく説明しなければ、理解しづらい面もあるかもしれない。とにかく、来年度の国債発行額については、新規国債はやや今年度から減額、借換債や財投債は増額となりそうだが、調整余力(補正や年金特例国債の発行分や前倒債の余力分)も大きい。市場参加者からは30年債などを中心に増発余力があるとの意見が多い。増発になったとしても消化には支障はなさそうである。何といっても大量に買ってくれる中央銀行も存在しており、来年度も国債の需給面では特に問題はないのではなかろうか。