日銀が出口に向かう時
日本の金融市場の行く末を見るとき、日銀の動きが非常に重要視されるであろうことは間違いない。昨年のアベノミクスの登場をきっかけとした円高調整と株高については、日銀の大胆な金融政策が多少なりとも影響したことも確かである。ただし、ここにきて米国株式市場が過去最高値を更新しているのは、アベノミクスや日銀の異次元緩和に依るものではない以上、東京株式市場の上昇要因は海外情勢の変化にかなり依存していることも確かであろう。
日銀の黒田東彦総裁は11月22日の衆院財務金融委員会で、FRBが議論している量的金融緩和の縮小などの出口戦略について「現時点で具体的なイメージをもって話すのは適当でないが、私どもとしても将来十分参考にさせてもらえる」との考えを示した(日経新聞)。
FRBは早ければ12月、場合によると1月のFOMCで量的緩和の縮小開始を決定してくることが予想している。雇用等の数字次第ではあるが、バーナンキ議長の任期中にとにかく出口に向けた道筋をつけてこよう。いったん縮小が開始されると、意外に早い段階で国債やMBSの新規の買い付け額をゼロに落としてくることが予想される。これにより、まず第一段階が終了する。次にFRBは保有する国債やMBSの残高縮小に動くであろう。ただし、こちらはゼロまで落とす必要はない。市場、特に米国債市場に悪影響を与えかねない国債の「売りオペ」についても慎重になると予想され、償還された国債を乗り換えないなどで自然に残高を落としてくるのが、第二段階となろう。最終的な利上げという第三段階までにはインフレ等の懸念が出ない限り、かなり時間を使ってくることが予想され、その分、緩和効果を発揮させて市場のマインドに働きかけようとしてくるのではなかろうか。
それに対して日銀の出口政策はどうするのか。日銀が出口に向けて姿勢を変えることそのものがかなり見通しづらい。今後は日銀が国債を大量に購入することで物価が上がるわけではないことが、徐々に理解されはじめてこよう。それがより明らかとなりそうなのが、来年4月の異次元緩和一周年の中間報告ともなる展望レポートの見通しか。
ただし、物価については4月からの消費増税の影響を受ける。このため物価そのものは上昇していることが予想され、異次元緩和効果と消費増税の影響をはっきり峻別ができなくなることも予想される。消費増税による景気への悪影響を意識して、日銀は追加緩和を行ってくるとの予想も強いが、そもそも異次元緩和が物価上昇には寄与しないことがはっきりすれば、さらなる異次元緩和の意味がなくなる。また、欧米の中央銀行とベクトルが異なることの影響も気になる。このあたり、なかなか興味深い事例ともなりうる。
いずれにしても日銀が出口を模索するのはかなり先と思うが、来年4月からは、このあたりの空気が変化してくることも予想される。大胆な国債買入が物価に直接影響を与えないとなれば、それを削減することによる「物価や景気への影響」はかなり限定的となろう。それよりも、債券市場への影響や財政との兼ね合いの方が意識されるかもしれない。こちらも元に戻るだけとなれば、国内を中心に国債の買い手はいる以上、むしろ債券市場からクジラがいなくなる分、流動性も以前のように回復してくることも考えられる。
ただしこれは物価の上昇等を背景に長期金利が2%を大きく超えるようなことはなく、長期金利の低位安定が継続していたのならばという前提条件が付く。実は日銀の目指す消費者物価指数(除く生鮮)の消費増税の影響を差し引いた2%という目標が本当に達成されて、それにより長期金利が2%を超えて上昇してきたときこそ、日銀の出口政策をかなり困難にさせることが予想されるのである。