黒田日銀総裁の消費増税へのコメント
内閣府が8月12日発表した2013年4~6月期実質国内総生産(GDP)は前期比プラス0.6%、年率でプラス2.6%となった。1~3月の年率プラス3.8%から減速し、前期比プラス3%台半ばあたりかとの事前予想も下回ったが、2期連続で2%以上の成長となった。名目GDPは0.7%(年率2.9%)となり、実質を上回った。
成長に寄与したのは、前期と同様に民間最終消費支出で、前期比プラス0.8%。民間住宅は実質マイナス0.2%。そして民間企業設備は、実質マイナス0.1%と前期のマイナス0.2%からは回復したが、減少は続いている。
これを受けて甘利明経済財政・再生相は、消費税率の引き上げに関して「判断する材料の一つとして、引き続きいい数字が出てきた」との認識を示した(ロイター)。注目すべきはGDP数値そのものよりも、これを受けての消費増税の判断となる。
8月8日の金融政策決定会合後の日銀総裁会見でも、質問はこの消費税の引き上げに関して集中していた。
「一般論として申し上げれば、大幅な財政赤字が続き、既に政府債務残高が極めて高い水準になっていることを踏まえると、政府において、今後の財政健全化に向けた道筋を明確にし、財政構造改革を進めていくことが極めて重要であると思っています。日本銀行としては、その着実な推進を強く期待しています。「中期財政計画」も示されたので、これに沿って、着実に財政健全化が推進されることを期待しています。」
「日本銀行」として財政健全化推進を強く期待と表明している。さらに「脱デフレと消費税増税は両立するか」という質問について、黒田総裁は「私は、両立すると思っています。」と答えている。これがヘッドラインニュースとして流れていた。
もし仮に脱デフレにリフレ政策が必要だとしても、財政ファイナンスと認識されないためには、政府が財政規律を厳守する姿勢を示す必要がある。この場合、両立するかどうかという以前に、脱デフレ政策としてのリフレ政策には消費増税を先延ばしすることは、その分のリスクを日銀や政府が背負い込むことを意味する。これは黒田総裁による次の発言にも現れている。
「財政規律の緩みや、最近言われる「財政ドミナンス」、あるいは「財政ファイナンス」のような懸念が持たれ、その影響が長期金利に跳ね返るようなことがあると、せっかくの「量的・質的金融緩和」の効果が減殺される惧れがあります。」
安倍首相の消費増税に対する曖昧な姿勢というか決断できない姿勢は非常に危険性がある。もちろん先送りされると財政ファイナンスと認識される懸念が生じ、それがわりじわりと株式市場や為替市場だけでなく、これまで日本国債への絶対的な信認を維持させてきた債券市場にも影響を与えかねない。このあたりのリスクを黒田総裁は意識しての発言かと思われる。
消費増税への見解については財務省出身の黒田総裁らしい回答という見方がある。しかし、アベノミクスの片棒を担がされて壮大な実験を政府による依頼で初めてしまった以上は、依頼主が市場等の安定化をはかる装置を起動させないという選択肢はありえない。このあたりの意向が総裁会見に現れているように思われる。ここにきて黒田総裁の会見内容が面白くなってきたが、政府の意向をなぞるだけでなく、日銀としての主張が見え始めてきたことも影響しているのかもしれない。