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債券市場参加者の消費増税への見方

久保田博幸金融アナリスト

7月29日に公表された7月のQUICKの月次調査(債券)には、消費増税に関するアンケート結果があった。これによると参議院選挙の結果を踏まえての消費税率の引き上げの可能性について、調査対象全体の96%もの人が、1回目は予定通り実施されると答えていた。このうち予定通り2回引き上げられるとみている人は67%、2回目は見送りとする回答は29%あった。

このように少なくとも来年4月の消費税引き上げはすでに既定路線として債券市場参加者には受け止められている。2回目についてはまだ半信半疑という感じである。2回目は延期とみているエコノミストもおり、私もどちらかといえば2回目は先送りの可能性もありうるかと考えている。

アンケートの質問には、仮に2014年4月の消費税率の引き上げが見送られた場合、相場への影響に関するのもあった。

日本の長期金利については上昇するが78%、影響なしが15%、低下するが7%となっていた。債券関係者にとっての本職の部分での10年国債の動向予想となるわけではあるが、財政健全化の遅れとともに、日銀の異次元緩和による大量の国債買いが財政ファイナンスと見なされる懸念を意識した回答結果かと思う。ただし、国債の信認はそう簡単に揺るがず、消費増税が見送られようが長期金利は低下すると答えた市場関係者が7%いた。

株式市場への影響については上昇が30%、影響なしが16%、下落が54%となっている。株は下落するであろうとみているが、長期金利の上昇ほどの自信はないといった感じの結果であろうか。

円相場(対ドル)については、上昇(円高)が23%、影響なしが16%、下落(円安)が60%となっていた。つまり来年4月の消費税引き上げが見送られると、長期金利の上昇(国債価格の下落)、株安、円安を招くとの予想となっている。

ここにきてその消費税の先行きがやや不透明になってきた。政府が来週にもまとめる「中期財政計画」の概要が明らかになり、来年4月からの消費税率の引き上げを今の時点では明確には盛り込まないことが明らかとなった。また、消費税率引き上げをめぐり、安倍晋三首相が増税による経済への影響について、複数案に分けて検証するよう関係部局に指示したとも伝えられた。

これが意味するところは、少なくとも首相官邸は来年4月の消費増税については、できれば避けたいとの意向のように思われる。ただし、すでにそれは法案が通っているものであり、民間企業などではそれに向けた対応も進められており、上記アンケート結果からもわかるように、市場の波乱要因ともなりかねず、いまさらの見送りはリスクも大きい。足下景気は回復基調となっていることもあり、なぜここで官邸はためらいを見せているのかが腑に落ちない。

QUICKのアンケートでは消費税率の引き上げが予定通り実施された場合、景気や期待インフレ率などへの影響に関するものもあった。日本の景気については、影響なし20%、減速48%、踊り場26%、後退局面入り6%となっていた。安倍政権が気にしているのも、消費増税による景気減速への懸念であり、せっかくのデフレ脱却を消費増税で妨げてしまい、それが支持率の低下に繋がることを警戒している可能性もある。

消費増税の景気への影響に関しては、過去の消費増税時の状況はあまり参考にならない。過去2回の消費税の引き上げ時は、増税による影響以上に外部要因による景気への影響が非常に大きかったためである。

来年4月の消費増税が先送りされるようなことになれば、市場がどのように反応するのかも、実際にはかなり不透明である。素直に国債も株も円も売られるような事態にはならない可能性も高い。ただし、本当にそれで日本売りが生じてしまうと、日本発の世界的な金融不安が引き起こされてしまう懸念もある。そのリスクはテールリスクではあったとしても、ゼロではない以上、そのようなリスクを回避するためにも、来年4月の消費増税は予定通り実施したほうが良いのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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