日銀もフレキシブルなインフレ目標なのか
7月22日の佐藤日銀審議委員の講演での「物価目標」に関わるところをチェックしてみたい。佐藤委員は「物価安定の目標」について次のような説明をしている。
「インフレ目標政策とは柔軟な金融政策の枠組みであり、インフレ目標導入国でも、目 標の達成・未達により機械的に政策を変更するような運営はなされていない。こうしたインフレ目標政策についての理解は同様の枠組みを採用する中央銀行の間で既に共有されている。」
これはやや認識が違うのではなかろうか。欧米の中央銀行と黒田日銀以前の日銀の政策は確かにフレキシブルなインフレ目標となっていたが、安倍自民党総裁は日銀法改正までちらつかせて、2%の物価目標を日銀に設置させ、黒田日銀はその期間を2年に定めた。白川総裁時代のフレキシブルな対応は甘すぎるとの批判もあってのアベノミクスのための異次元緩和ではなかったか。
「2%の「物価安定の目標」を掲げる日本銀行の金融政策の枠組みも柔軟なものであり、2%をピンポイントで達成することを目指すものではなく、2%を「安定的に達成」することに主眼を置いたものと私自身は理解している」
黒田以前の日銀はそのように理解していたが、黒田総裁や岩田副総裁が果たしてそのような理解をしているのかは甚だ疑問である。特に岩田副総裁は2年で2%の目標が達せられないのであれば、辞任するとコメントしていたはずである。これのどこに柔軟性があるのであろうか。
「ここで「安定的に達成」することの意味だが、金融政策の効果波及までのラグや不確実性を勘案すれば、そもそも2%ピンポイントで物価を安定させることは不可能で、上下に一定程度の変動が許容される幅(アローアンス)があると考えるのが自然であろう。」
これは何も講演で自らの意見を主張する前に、黒田総裁や岩田副総裁とこのあたりの意見のすり合わせをまず進めるべきではなかろうか。市場参加者の多くも2%でピンポイントで達成できるとは考えていないし、本当にそこまで物価が上がった際の長期金利の見通しについても、不確定な状況にある。ここが市場と対話が成り立っていないところであるはず。佐藤委員は個人的な意見として市場側の意見に近いのであれば、それを決定会合でもっとその意見を反映させるべきではなかろうか。
「アローアンスをどの程度みるかは政策委員間で多少見解の相違があるかもしれないが、私自身は2%を中央値としてある一定の範囲内で物価上昇率が安定する見通しが立てば、「量的・質的金融緩和」の主要な目的は達成できたと評価できるのではないかと考えている。」
この見方が黒田日銀以前の大方の日銀関係者の意見であったはずである。当初、1%という目標を設定したら、物足りないとされて2%に引き上げさせられた経緯はいったい何であったのか。ある一定の範囲内の下限を1%とするのであれば、再び政府からプレッシャーが掛かることも予想される。この意見が本当に政策委員の大方の意見であるとすれば、安倍首相がそれを許すとは思えない。
「「物価安定の目標」があくまでもこうした一定のアローアンスをもった柔軟な枠組みと考えるのであれば、目標はリーズナブルであるし、達成も可能であろう。」
佐藤委員のご意見は誠にもってその通りであり、そういった金融政策を異次元緩和以前まで行っていた。それであれば出口政策も当然楽になる。しかし、それを否定したところからアベノミクスは始まっている。決定会合は委員会制となっており、それぞれの専門の委員が自らの意思で採決に望んでいるはずである。佐藤委員が日銀も欧米と同様にフレキシブルな政策を行っているとするのであれば、このあたりをもう少し具体的に決定会合でも示すべきではなかろうか。そこで意見を戦わせてもらえれば、市場参加者との対話もスムーズに行くように思うのであるが。