取り残された日銀
ECBのドラギ総裁は7月4日、定例理事会後の記者会見で、「理事会はECBの主要金利が長期間にわたり、現行水準もしくはそれを下回る水準になると予想する」と発言した。これまでECBは、金利に関して予断を持たず、形式上は事前に将来の金融政策についてコミットしないという方針を貫いてきたが、その方針を変更してきた。
7月4日のイングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)では、全員一致で政策の現状維持を決めた。7月31日・8月1日に開催される次回会合では、インフレ・レポートと同時に、何らかのフォワード・ガイダンスを導入するとしている。これは量的緩和政策からシフトダウンし、非伝統的な金融政策から伝統的な金融政策への移行を意識させる。ECBについても、8月1日の政策理事会で同様の議論がなされ、具体的に何で縛りをかけるかが検討されると思われる。
FRBも量的緩和政策の縮小を検討している。6月18・19日分のFOMC議事要旨によると、年内に量的緩和政策を今年の後半に縮小するのが適切との見方をしているFOMCの参加者(投票権を持たない地区連銀総裁含む)が半分近く存在している。縮小緩和時期については、予断を与えないようにしているが、早ければ9月あたりから開始かとの見方が強まりつつある。こちらも軸足を中央銀行のバランスシートの拡大から、インフレ率の見通しが2.5%を超えない範囲において、米失業率が6.5%程度で安定するまで事実上のゼロ金利を継続するというフォワード・ガイダンスに移してくることが予想される。
これに対して日銀は、イングランド銀行のカーニー総裁が言うところのフレキシブル・インフレ・ターゲットのフレキシブルという表現を除いたインフレ・ターゲットを採用している。そもそも柔軟性を必要としていた白川前総裁の金融政策が手ぬるいとして、安倍自民党総裁は日銀法改正までちらつかせて、インフレ・ターゲットを日銀に採用させ、それを黒田総裁が異次元緩和でリフレ政策を整えた。この過程を踏まえると、フレキシブルな政策が許されるような状況にはないはずである。
6月10日、11日に開催された日銀の金融政策決定会合議事要旨によると、「複数の委員は、短期金利の見通しについて市場の見方がばらついている可能性を指摘した」
短期金利の見通しというよりも、物価の上昇予測の見通しがはっきりせず、日銀の2%の物価目標の達成の可能性について、否定的な見方が多いものの、仮にそれが達成されたと仮定して、その際の金利の動向が読めないということではなかろうか。
「この点について、複数の委員は、こうしたばらつきを抑え、金利の安定化を図るためには、日本銀行が、2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を継続する、というコミットメントをしていることを繰り返し情報発信することで、短期金利をしっかりと低位にアンカーすることが重要であるとの見方を示した。」
短期金利は日銀の金融政策でアンカーできるかもしれないが、長期金利は規制金利ではなく、統制経済下にあるわけでもなく、世界の金融市場と隔離された鎖国状態にないため、日銀が力づくで抑えることはかなり難しい。それを4月5日に日銀も思い知らされたはずである。
ここにきて長期金利は0.8%台で落ち着いた動きとなっているが、この落ち着きがこのまま続く事は考えづらい。欧米の中銀は正常化に向けて歩を進めているが、日銀は孤高の異次元緩和を行うことになりかねない。しかも物価目標達成への経路は見当たらず、日銀は実質金利の低下を促すとの表現に変えざるを得なくなっている。
柔軟性を欠いたまま、周りは正常化の流れにあって、日銀は一人残り、異常時の対応をして、2年間でコアCPI2%を力づくで達成しようとしている。外部環境の変化に応じた政策を取らず、頑なに物価上昇を目指し、大量の国債を購入し続ける中央銀行の行く手に何が待っているのか。たしかにこれは外部から見れば、壮大な実験であり、その行く末に関心を抱かれるのは当然なのかもしれない。