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物価は上がるのか(決定会合記事要旨より)

久保田博幸金融アナリスト

6月10日、11日に開催された日銀の金融政策決定会合議事要旨が公表された。最初に物価に関するところをみてみたい。

「予想物価上昇率について、委員は、マーケットの指標などで上昇が一服しているものもあるが、家計やエコノミストに対する調査など全体としては上昇を示唆する指標がみられるとの見方を共有した。」

予想物価上昇率に影響を与えるために4月4日に大胆な緩和策を講じた以上は、立場上も上昇してくれないと困るものであろう。具体的に測ることも難しいものであり、このような曖昧な表現になっている。流動性等の問題もあり、あまり参考にならない物価連動国債から出されるBEIは低下しており、これが上昇が一服しているマーケットの指標のひとつか。

「複数の委員は、実際の物価指標の上昇基調がはっきりとしてくれば、予想物価上昇率も上昇していくとの見方を示した。」

「5月には概ねゼロ%まで明確に改善し、その後についても、マクロ的な需給バランスの改善の影響も加わり、緩やかにプラス幅を拡大していくと考えられるとの見方を共有した。」

これへの期待は大きそうである。この会合時点ではまだ明らかではなかったが、5月の全国消費者物価指数は前年同月比0.0%となり、7か月ぶりにマイナスから脱している。

「マクロ的な需給バランスの改善の影響」がどの程度影響しているのかは不明ながら、短観の数値を確認する限りはそれへの期待もあるものと思われる。しかし、今後のコアCPIの上昇は電気料金の値上げ分が相当に含まれており、これは以前から予想されていたものである。異次元緩和がなくても当初の予定通りの上昇ともいえる。ただし、アベノミクスによる円安の影響も加わってきていることも確かではある。

「一人の委員は、世界的なディスインフレ傾向の中で、わが国の物価が、わが国独自の要因でプラス幅を拡大していくか注視していると述べた。」

なかなか興味深い発言である。わが国独自の要因というのは、日銀の異次元緩和を含めてのアベノミクスのことなのであろう。

「先行きの金融政策運営について」のところではどうやら佐藤委員と木内委員の応酬があったような気配がある。

「ある委員は、「物価安定の目標」を2年程度で達成するのが難しい中で、「量的・質的金融緩和」が長期間継続される、あるいは極端な追加措置が実施されるという観測が市場で高まれば、金融面での不均衡累積など中長期的な経済の不安定化につながる懸念があるため、継続期間を2年程度に限定し、その後柔軟に見直すとの表現に変更することが適当であると述べた。」

この発言は、木内委員が対外公表文に関し、「日本銀行は、中長期的に2%の「物価安定の目標」の実現を目指す。そのうえで、「量的・質的金融緩和」を2年間程度の集中対応措置と位置付け、その後柔軟に見直すこととする。」に変更する内容の議案が提出されており、上記発言は木内委員と思われる。

「ある委員は、これに対し、「物価安定の目標」を2年程度で達成するのが難しいとしているにもかかわらず、明確な手段を示さずに中長期的に2%を目指すというのは分かりにくいと指摘した。さらに、この委員は、現在の枠組みでも、必要な調整の可能性は排除されておらず、柔軟性は十分に確保されているとの見方を示した。」

これは佐藤委員の発言のように思われるが、明確な手段を示さずに、というところは木内委員に向けられたものではなさそうである。柔軟性が本当に確保されているのかについては、やや疑問である。もちろん現在の金融政策を決定するシステム上は柔軟性は確保されているが、黒田総裁は「戦力の随時投入はせず」と発言し、その柔軟性を排除しようとしているように思われる。

いずれにしても、現在のファンダメンタルや株価・為替・長期金利の動きからは、日銀が特に動く必要はない。問題は物価が予想通りに2%に向けて上昇してこないと予想されたときの対応であろう。しかし、来年4月には消費増税が予定されており、それによる物価上昇がどの程度あり、それが国民生活にどう影響してくるのか。物価に対しての国民の意識に変化が生じてくることも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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