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日銀の異次元緩和に対する欧米中銀の反応

久保田博幸金融アナリスト

アベノミクスに対しての海外からの反応は、概ね好意的なものが多いようである。あくまで表面上のものなので、そのあたり気を付けなければならないが、非難するような発言はあまり見られない。アベノミクスの中核となっている日銀の異次元緩和についても、たとえばFRBのバーナンキ議長は5月22日の議会証言で次のように発言している。

「日本の政策を支持しており、2つのことに注目したい。1つは、現行の計画では、対国内総生産(GDP)比で日銀のバランスシートの規模が、FRBの3倍になるということだ。2つ目として、日本の行動が金融市場のみならず実体経済の一定部分にこれまでのところかなり劇的な効果を及ぼしているようにみえるということだ。このことから、こうした政策が経済に効果を与えていることがやや一段と裏付けられたと理解している。」(ロイター)

次期イングランド銀行総裁となるカナダ銀行のカーニー総裁は、5月21日のカナダ中銀総裁としての最後の講演で、「中途半端な対応策の危険性という面では、欧州は日本から教訓を引き出すことができる」と述べ、自身が「大胆な政策上の実験」と呼ぶ日本の大規模金融緩和が成功するかどうかは今後数年の世界経済見通しに影響するだろうと述べたそうである(ロイター)。

ECBのドラギ総裁は、4月5日の会見では日銀が新たに打ち出した金融緩和策について論評を避けていた。これに対して、ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁は5月23日に、「日本の実験に幸運を祈りたい。金融政策が非常に大変な窮地に追い込まれる危険があるとわれわれは考えている」と発言。「日銀は発行される国債の70%を購入している。私は事実を話しているだけで、コメントしているわけではない」と語った(ブルームバーグ)。

IMFのラガルド専務理事は、4月18日に「日本でこのほど発表された野心的な金融緩和の枠組みは、われわれの視点から見て前向きな一歩だった」と述べた。

日本ではむしろ少数派に属すると思われるリフレ派の政策に対し、これほど好意的に受け止めているというのは驚きである。ただし、カーニー総裁が「大胆な政策上の実験」と指摘したように、高見の見物を決め込んでいるように見えなくもない。いわゆるリフレ派代表であったはずのバーナンキ議長も、昔の学者時代に戻ったかのようなコメントながら、肝心のFRB自身の政策については、持論であったはずのインフレ・ターゲットの導入とはいまだ正式に認めていない。ドラギ総裁は明確なコメントを出していないあたり、かなり慎重に見ていると思われる。ドイツ連銀のバイトマン総裁は、タカ派的なドイツ連銀総裁らしい発言と言える。

日米欧の中央銀行が果たして、本音では日銀の異次元緩和をどのように見ているのか。その本心を知りたいところではあるが、一度誰かが試すのを見たかった壮大な実験であったことは確かなのではなかろうか。失敗すれば世界経済にも影響を与えかねないが、一番被害が及ぶのは日本である。もしも成功すれば、金融政策の在り方そのものに変化が生じる可能性もある。日米欧の中銀はその成否とともに、異次元緩和後の日本の金融市場で起きていることをつぶさに観察し、今後のために観察日記をこまめにつけていると思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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