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長期金利の変動リスク

久保田博幸金融アナリスト

日銀は「金融システムレポート(2013年4月号)」を公表した。ここでは金融機関による金利上昇に伴う債券時価損失のところが注目されていた。

全年限にわたり金利が一定幅上振れるパラレルシフトの場合、金利が1%上昇した際、国際統一基準行で3.2兆円、国内基準行で3.4兆円の評価損が発生するとの試算があった。ちなみに2%の上昇となると、パラレルシフトの場合に国際統一基準行で6.2兆円、国内基準行で6.3兆円の評価損が発生する。

日銀は大胆で異次元の緩和政策により、2年間でコアCPIを前年比2%とするのであれば、長期金利も当然ながら同様に上昇してくるはずである。その際の金融機関の評価損については、金利が1~3%程度上昇するなどストレスが生じても、銀行の資本基盤が損なわれることは回避されると指摘もあった。

このレポートには、長期金利の変動リスクについての項目もある。

「長期金利の水準は、先行きの成長率予想やインフレ予想のほか、財政悪化懸念を含む各種のリスクプレミアムや金融政策に対する期待など、様々な要因に影響される。」とある。

長期金利を見る際には、経済成長率や物価動向とともに、財政プレミアムがオンされてくるのかどうか、さらには金融政策による期待というか、不安も含めて影響が出る。ここで不安としたのは、今回の大胆な緩和政策にて、国債の流動性リスクが意識されるなどしたことで、債券市場は一時混乱しており、一概に期待ばかりではないようである。

ソブリンCDSプレミアムからみての財政悪化懸念の高まりは特に窺われないとあるが、「ソブリンCDS市場の流動性が低く、同プレミアムが、必ずしもわが国の財政状況に対する市場の見方を正確に反映しているとは限らない点に留意が必要」ともあるようにあくまで参考指標でしかない。ただし、債券市場を見ても現状、財政悪化懸念が強まっている気配はないことは確かである。

先行きの成長率予想は0.5~1%程度、インフレ予想をみるとエコノミストによる長期物価予測はここ数年低下傾向にあるが、3月時点では、サーベイ調査によれば市場参加者の長期物価見通しが幾分上昇しているものの、まだあくまで幾分であった。

「ゼロ・クーポン・インフレーション・スワップのレートや物価連動国債の利回りからみたBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)も、やや上昇している」とある。

ゼロ・クーポン・インフレーション・スワップには解説もあり、ゼロ・クーポン・インフレーション・スワップ(ZCIS、インフレ・スワップ)とは、CPI の変化率を参照する変動金利と満期時一括払い固定金利(ゼロ・クーポン)を交換する金融派生商品とある。

いずれにしても、物価連動国債は今年度から発行が再開されるが、5年前に発行が停止されており、流動性は極端に低いとみられるため。こちらもあくまで参考数値となろう。インフレ・スワップについても流動性は限定的のようである。

日銀のレポートでは、別の手法を用いてわが国の長期金利の要因分解を試みている。概ね似通った動きをみせている日米英独4か国の長期金利の変動から、グローバルに共通な要因と考えられる「共通成分」を抽出し、長期金利を共通成分とその他(国内要因など)に分解すると、わが国の長期金利は、ごく足もとではその他(国内要因など)の縮小を主因に低下しているが、ここ数年の趨勢的な低下は、グローバルに共通な要因によることがわかる。

たしかにこのような分析をしないと長期金利の理論的な背景が分析できないことはわかるが、これは市場の動向を見ていればある程度わかる。欧州リスクが日米欧独の長期金利の動向に大きく影響していたのが、アベノミクスの登場で足下では日銀の金融政策の動向に大きく影響を受けていた。それをこのレポートでは、数値化して見せている。このグラフを見ると、2006年3月のいわゆるVaRショック前には特異な動きをしていたことが見てとれる。今回の日銀の大胆な緩和以降の長期金利についても一時0.315%にまで低下したことで、2006年3月の時と同じような特異な動きになっていたと推測される。

ここ数年の趨勢的な低下については、「金融規制の強化や有担保調達ニーズの強まりなどを背景とする安全資産としての国債需要の高まり、あるいは各国中央銀行による安全資産の買い入れなどが、国債需給のタイト化を通じて、長期金利の水準を押し下げているという可能性である」が指摘されている。

安全資産としての国債需要については、欧州リスクが一時に比べて後退してきたことで、今後はむしろ後退してくる可能性がある。また各国中央銀行による安全資産の買い入れについてはFRBなどは出口政策を模索しつつある。それに対して日銀は発行される国債の7割も購入することで、国債需給のタイト化は今後も続く。これはむしろ超長期債を中心に国債市場の流動化を阻害しかねない。このあたりの分析も今後は必要となりそうである。

「わが国の財政悪化懸念による金利上昇リスクに加えて、例えば、今後、非伝統的金融政策の巻き戻しを巡る思惑などを契機に海外長期金利が上昇する場合には、わが国の長期金利も上昇する可能性がある点にも留意しておく必要がある。」と今回のレポートではまとめられている。

それとともに本当に2年で2%の物価上昇が可能であるとするのであれば、それによる影響も意識する必要がある。反対に国債市場の機能にまで影響を及ぼしかねない大胆な金融政策を打っても、物価への影響が限定的となった場合の長期金利の動きについても、今後は考慮しておく必要もあろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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