日銀正副総裁人事案が固まる

日経新聞などの報道によると、政府は3月19日に退任する日銀の白川方明総裁の後任にアジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁を起用する人事案を固めたそうである。副総裁には学習院大学の岩田規久男教授を充て、もう1人の副総裁には日銀から中曽宏理事を昇格させる案を軸に検討と伝えられた。

25日にも政府案が出されるとされていたこともあり、どうやら政府案はこの報じられた布陣となりそうである。国会の同意についても、民主党の賛成が得られる可能性が高いとみられる。たしかに3人ともこれまで予想されていた名前であるものの、意外感もあった。

ひとつには黒田氏の起用にあたっては、ADB総裁が任期途中であるため後任問題が残ることもあり、個人的にはそれほど可能性は高くはないのではとみていた。特に中国あたりが虎視眈々とその席を狙っているとも伝えられていた。それであれば財務省出身の武藤氏の可能性もと思ったが、岩田一政氏を含め両元副総裁については、過去に量的緩和解除に賛成したことなどがネックとなったのであろうか。

黒田氏については、これまでインフレ目標の導入と積極的な金融緩和を求める主張をしており、たしかに安倍首相の意見に近い。さらに首相の掲げていた日銀総裁の条件、国際金融界での幅広い人脈、海外への情報発信力等にも合致する。

黒田氏以上に意外感のあったのは、副総裁に起用される岩田規久男氏であった。まさにリフレ派筆頭とも言える人物であり、1990年代前半に翁邦雄氏との間で、マネタリーベースなどについて論争を繰り広げた翁・岩田論争でも有名な人物である。いよいよその持論を日銀の副総裁となって展開することになるのであろうか。

もうひとりの副総裁は日銀の中曽宏理事を昇格させる案となっている。これである程度は現場の意見も反映されるであろうが、小規模な岩田・翁論争みたいな事態が発生する可能性がある。

積極的なインフレ・ターゲット論者が現場に入った事例は海外にもある。たとえば金融政策を決定する立場となると自らの主張を変化させてきた事例として、現在のFRB議長の存在があげられる。これに対して、今回の日銀の正副総裁の人事は日銀の金融政策にどのような影響を与えるであろうか、恐い物見たさを含めて興味がある。

すでに日銀は安倍政権の意向もあり、2%の物価目標を導入している。ただし、これは日銀としてはフレキシブルなインフレ・ターゲットとの認識であり、岩田規久男氏の言うところのインフレ・ターゲットとは次元が異なっている可能性がある。ただし、より積極的な金融政策を行うにしても手段は限られる。

このあたりについては黒田氏の過去の発言なども参考になるかもしれない。黒田氏はかなり前ではあるが、あるセミナーでこのような発言をしていた。「金融政策にはいろいろなチャンネルがある。ポートフォリオリバランスで資産の中身を替えるときに、外貨資産の購入に絞る必要はない。株や実物資産、外貨資産、さらには極端なことを言えば、直接的にモノを買うことで消費や設備投資を代替してもよい」と。

少なくとも黒田氏は円安のための外債購入については反対であった。このため日銀による外債購入の可能性はほぼ消えたとみて良い。特に黒田氏や中曽氏は国際経験が豊かであり、今回のG7やG20、さらには米国の意向なども意識してくるとみられ、こちらの配慮について抜かりはなさそうである。

それに対して超過準備の付利引き下げなどについては、白川総裁ほどは配慮してこないかもしれない。資産の買入についても、リスク資産を含めて拡大し、より期間の長い国債の買入も行ってくる可能性がある。いわゆる日銀券ルールについても撤廃されるかもしれない。そうなれば今後は、財政ファイナンスとの認識も強まってくる可能性もありうる。日銀法改正の可能性も出てこよう。今回の日銀の正副総裁人事により、アベノミクスによるリスクがあらためて認識されてくることも予想される。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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