2%の物価目標の無理矢理感
1月21日・22日分の日銀金融政策決定会合議事要旨が公表された。この会合で日銀は政府からの要請のあった「物価安定の目標」を導入することを決定し、同時にあらたな追加緩和策として、「期限を定めない資産買入方式」を導入することを決めた。
この際の議事要旨ということで、内容はかなり注目され、2月19日の金融市場はこの議事要旨の中の「複数の委員は、短期国債の買入れの強化は、短期ゾーンの金利低下を通じて、為替市場へ働きかける観点からも重要であると指摘した。この間、複数の委員は、例えば、資産買入れの対象となる長期国債の残存年限を5年程度まで延長することも考えられると述べた」との発言に影響を受けたようである。今回はこの議事要旨の中から、2%の物価目標に対する政策委員の意見について見てみたい。
この目標設定はいわゆるアベノミクスによる影響が大きい。日銀法改正をちらつかせて、目標を設定させたとの見方もできる一方、安倍政権への期待で円安・株高も進み、日銀としてもその流れを強めさせるには、達成の可能性はさておき、導入に踏み切らざるを得なかった面もあったのではなかろうか。
実際にこの2%の物価目標に反対した委員もいたわけで、1%に達する前に拙速な金融緩和策の後退を行う政策意図がないことを明確に示せば、1%でもいいだろうとの意見もあった。今回の会合では大勢意見に従いたいと述べた委員もいたことがわかり、これはつまり異議を唱えたのは2人の委員ではなく、少なくとも3人以上いた可能性がある(実際にはかなりいたと思われるが)。
2%の物価目標に反対の理由としては、「現状、中央銀行が2%という物価上昇率を目標として掲げるだけでは、期待形成に働きかける力もさほど強まらない可能性が高く、これをいきなり目指して政策を運営することは無理がある」などがあげられているが、これに対しては次のような意見が出ていた。
「様々な研究結果を見ても、かなりの割合の人々のインフレ予想は、将来の政策やそれによる経済の変化を織り込んで形成されていると考えられるので、これらの人々の予想形成に働きかけることは自然であると付け加えた」
人々のインフレ期待を高めることは可能かもしれないが、実際に物価を上昇させるのは、期待だけで可能なのかという点が疑問である。このあたりについてはあまり説明がなされていない。
「一人の委員は、労働力人口が毎年 0.6%ずつ減少していく中で、2%の物価上昇率を安定的に実現するためには、きわめて高い生産性の上昇が必要になるという厳しい現実を直視する必要があると述べた。また、もう一人の委員は、政府が消費者物価の前年比上昇率2%という目標の達成に向けた 責任を分かち合うことが明示されなければ、企業や家計の期待形成に働きかける効果は限定的ではないかとの見方を示した。」
安倍首相はデフレは貨幣的現象と述べたそうだが、物価を上げればそれで済む問題でもなく、そもそも金融政策がどのような経路を通じて物価上昇に寄与するのかもはっきりしていない。解消すべきはデフレではなく、デフレとなっている経済環境であり、そのために三本の矢が必要と言うことなのかと思う。
今回の日銀の決定会合議事要旨は、決定についてかなりの無理矢理感もあったことで、内容はかなり興味深いものとなっており、物価への金融政策の影響などを議論するのにも良い教材となるのではなかろうか。