日銀の独立性は政府への信認に必要なもの
安倍政権の誕生で、今後の日銀の動向に注目が集まっている。2%の物価目標を政府から要請され、それを飲んだは良いが、それはそれで日銀の独立性の問題が出てくる。海外からは円安牽制のような発言も相次ぐが、そこには中央銀行の独立性が脅かされているとの懸念も付いていた。
24日にドイツのメルケル首相はダボス会議に日本に関する発言をした。為替操作が競争をゆがめる恐れがあるかとの問いに対し、首相は「不安が全くない訳ではない」と答えた。その上で「日本に関し、現時点で全く懸念していないとは言い難い」とし、「中央銀行は、政治の後始末や競争力の欠如を補うためのものではないというのがドイツの立場だ」との考えを示した(ロイター)。
ドイツのショイブレ財務相も1月17日、安倍新政権が目指している将来的な追加金融緩和に強い懸念を表明した。ショイブレ財務相は、下院議会での演説で「安倍政権の新たな政策を非常に懸念している。世界の金融市場で流動性が過剰であることを考えると、中央銀行の政策についての誤った理解がそれをあおっている」と述べた(ロイター)。
バイトマン・ドイツ連銀総裁も、日本政府が日銀にさらなる金融緩和を迫ったことは、ハンガリー政府の同国中銀に対する行為と同様、日銀の独立性を危険にさらしていると指摘した。
海外からも本気で心配されている日銀の独立性については、今回の共同声明の内容を見ても、今のところさほど懸念する必要はないと思う。そうではあるが、日銀法改正の動きが完全に払拭されたわけでもなさそうである。
世界の金融の歴史の中で、築き上げられた仕組みのひとつが中央銀行制度であり、通貨の信用を維持する基本的な仕組みである。戦後、中央銀行に対して独立性を付与する動きが強まったのは、むしろ政府への信認を強めるためでもあった。
米国については、加藤出氏が次のように書いている。「クリントン政権時代の財務長官だったロバート・ルービンは、大統領や政権幹部に対し、金融政策を公の場で批判しないほうがよいと主張した。「金融政策に言及することを政権が一貫して拒否し、FRBの独立性に無限のサポートを与えることは、金融政策の信認を高め、政権への尊敬を高めることができる」「真の中央銀行の独立性は、われわれの経済にとって明らかに最適なレジームだと私は考えている」と語っている」(「総選挙の争点で注目集める「日銀の独立性」を復習する」週刊ダイヤモンド・オンラインより)。
1992年10月29日に当時のラモント財務相がインフレ・ターゲッティング導入に伴う新政策の内容を発表したが、このラモント氏に直接インタビューした記事があった(2012年11月23日の毎日新聞のコラムより)。これによると「ただ、目標だけではうまくいかない。当時イギリスでは、蔵相に金利決定権があった。都合よく金利を操りたがるのが政治家。だから目標を決めたら、あとは中央銀行のプロたちに任せよう。インフレ目標と中央銀行の独立性はセットだったのだ。」とある。
1997年5月に英国ではブレア政権が誕生し、ブラウン財務相は就任わずか4日目に金融政策の大転換を行い、財務省から中央銀行であるイングランド銀行に金融政策の決定権を移し、独立性を高めるという大胆な改革に踏み切ったが、あらためてこの際にインフレ・ターゲッティングの土台も築かれた。
今回の日銀による2%の物価目標(インフレ・ターゲット)と政府と日銀の共同声明は、その内容を見る限り、日銀の独立性を脅かすものには見えない。ただし、そこまでの過程を見ると、安倍総裁は日銀法改正までちらつかせてそれを導入した経緯がある。政権内部にも日銀の独立性を毀損するリスクを感じた人物もいたとみられ、悪い意味でのレジーム・チェンジとはならなかった。それでも今後、日銀法が改正されるようなことになれば、海外から非難されるだけではなく、今度は本当に円売りを招く恐れがある。政府も自らの信認を高めたいのであれば、中央銀行の独立性に配慮する姿勢を示すべきであることは、これまでの歴史が示している。