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円安の背景をあらためて確認

久保田博幸金融アナリスト

ここにきて再び円安の動きが強まり、ドル円は90円台を回復しユーロ円は121円近辺をつけている。これは24日に西村内閣副大臣が「1ドル100円は問題ないとの認識。浜田宏一内閣官房参与と共通」と発言したことなどがきっかけとされたが、そもそも円安基調には変化なく、円安の材料に反応しやすい地合となっていることが要因と思われる。それでは何故、円安基調となっているのか、その背景についてあらためて確認したい。

財務省が24日に発表した2012年の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6兆9273億円の赤字となった。貿易赤字は2年連続になるとともに、赤字額は1980年の2兆6129億円を大きく上回り、比較可能な1979年以降で最大となった(日経新聞の記事参照)。

日本の国際収支の悪化とともに、これにより経常収支の黒字幅の減少は円安要因となる。そして、円安が貿易赤字をさらに拡大させる可能性もある。昨年来からの円安は日本の国際収支の悪化がその背景にあると考えられる。ただし、それでもなかなか円高傾向から脱することができなかったのは、ユーロの信用不安が円安の動きを封じていたためと思われる。

そのユーロの信用不安が昨年から次第に後退し、重石が外れてきたことで円安が進んだ。ブルームバーグによると、ECBのドラギ総裁は1月22日の講演で、昨年講じた断固たる政策が奏功し「ユーロ圏を覆っていた暗黒の雲は後退した」と述べている。それを示す象徴的な出来事が、最近起こっていた。

スペイン政府は1月22日に10年物国債70億ユーロ相当をシンジケート団引受方式で発行したのである。スペインが長期債を発行したのは2011年11月以来となるが、調達額は当初見込んでいた40億ユーロを大幅に上回った。この10年国債の新指標銘柄は、外国人投資家が60%以上を引き受けたそうである(ブルームバーグ)。

1月23日には、ポルトガルもシ団を通じ、2年ぶりに国債を発行した。2011年に国際支援を受けてから初めて発行される長期債には強い需要が集まり、約20億ユーロの5年債に対し、5倍に当たる約100億ユーロの需要が集まった。

アイルランドも1月8日にシンジケート団引受方式で2017年償還債を25億ユーロ発行している。これにより2013年の発行予定額100億ユーロの4分の1を調達したことになる。アイルランド国債管理庁(NTMA)は当初、20億ユーロ程度の発行を見込んでいたが、応募が70億ユーロを超えたことから、予定を上回る額を調達した。この際の海外投資家による購入は全体の87%を占めたそうである。国債管理庁は、月次入札を年内に再開したい考えとも伝えられた(ロイター)。

スペインやポルトガルの長期債の発行が再開され、特に海外投資家からの強い需要があった背景には、ドラギECB総裁の発言にもあったようにユーロ危機の収束が意識されたものと思われる。実際にスペインやポルトガルの国債利回りは低下基調となっている。

このように円を買う要因となっていたものが剥げ落ち、むしろ円を売る要因が見えてきたことが、昨年からの円安の背景にある。アベノミクスが円安を加速させたことは確かであるが、円相場が政府の掛け声だけで変化したとすると見方を誤る可能性がある。2%の物価目標を掲げても、それはあくまで目標でしかなく、現実に物価が上昇することがなければ、絵に描いた餅になる。そんな画餅の評価等だけで、相場のトレンドが変わるようなことはないと思われる。

このため、今後の円の動きや、当面は為替の影響も受けやすい株式市場の動向をみるには、ユーロ危機の終焉、日本の貿易構造の変化等をチェックしておく必要があろう。そして債券市場にとっても、ユーロ危機の終焉化とそれによる欧州の国債市場の変化、日本の経常収支の黒字幅の減少と円安の動きは、海外投資家などの動向にも影響を与えてくる可能性があり、注意が必要と思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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