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安倍政権の中央銀行の政策についての誤った理解

久保田博幸金融アナリスト

ドイツのショイブレ財務相は1月17日、安倍新政権が目指している将来的な追加金融緩和に強い懸念を表明した。ショイブレ財務相は、下院議会での演説で「安倍政権の新たな政策を非常に懸念している。世界の金融市場で流動性が過剰であることを考えると、中央銀行の政策についての誤った理解がそれをあおっている」と述べた(ロイター)。

これは円安ユーロ高の動きに対しての牽制発言とも受け取れなくもないが、「中央銀行の政策についての誤った理解」という指摘というか批判は注意すべきものではなかろうか。

大胆な金融緩和と積極的な財政政策をミックスさせたアベノミクスは、円高調整の動きを加速させ、それにより急激な株高を演出した。円安株高の動きは、まさに日本人にはハッピーと受け取られ、新聞雑誌にはアベノミクスの活字が踊り、書店によってはアベノミクスのコーナーも設けられているそうである。安倍政権の誕生により、神風が吹いたような印象である。そのアベノミクスの提唱者の一人とされる浜田宏一内閣官房参与の発言により円安がさらに進むなどしている。

21日から22日にかけての日銀の金融政策決定会合では、2%の物価上昇率を目標とする共同声明を政府と日銀で取り交わすことについても議論するとみられる。日銀総裁は政府の意向に賛同しているとみられるが、日銀の決定は政策委員の多数決によって行われる。しかし、政府の意向に逆らうような決定が出されることは考えづらい。

政府も日銀の独立性にも配慮したのか、アコード(政策協定)という表現は引っ込めて、共同宣言、もしくは共同声明とするようで、より拘束力の強いアコードの名称にはこだわらない姿勢を示した(日経新聞)。日銀としても、日銀法改正に向けた動きは断固避けたいとみられ、政府もそこまで踏み込むことによるリスクを配慮したものと思われる。

この共同文書には、「西村副大臣によると、2%の物価目標を共有するが達成時期は明記せず、金融緩和手段は日銀に委ねる。共同文書には政府も規制緩和などを推進し成長戦略を実行していく旨を記載するとともに、財政再建の重要性も盛り込む方向だ。物価目標達成に向けた進ちょく状況を日銀総裁が経済財政諮問会議で説明する説明責任についても記載する。」(ロイター)

成長戦略の実行、財政再建の重要性などについては、日銀からの要請があった可能性もある。日銀の金融政策だけで物価を上げることには、かなりのリスクが伴う。昨年の安倍自民党総裁の発言にもあった輪転機政策では、日銀券の信用損失と引き替えに円の下落や、物価上昇を引き起こす懸念が存在する。そもそもデフレ脱却と主張するが、必要なのは物価上昇そのものではなく、景気や雇用の回復があり、それとともに物価も上昇していく姿ではなかろうか。物価が上がれば何もかもうまく行くのであれば、何も金融政策や財政政策に頼らずとも、公共料金の値上げ等などにより可能なはずである。

2%の物価上昇率を目標とする共同声明については22日に、麻生副総理兼財務相、甘利経済再生担当相、それに日銀の白川総裁がそろって発表する。問題となるのは、物価を前年比2%のプラスとする手段である。目標の達成時期は盛り込まず、具体的な手法については日銀に委ねることになろうが、これは日銀の独立性を配慮したというより、ある意味日銀に丸投げされた格好である。22日には政府の経済財政諮問会議も開かれ、この共同声明の内容が報告されるとともに、今後、目標の進ちょく状況などを諮問会議で検証することを確認すると伝えられている。イングランド銀行総裁は四半期に一度、公開書簡を財務相に送れば済むが、日銀総裁は経済財政諮問会議で毎度説明する必要がある。

日銀はこの共同声明の受け入れとともに、2回連続となる追加緩和を決定すると予想されている。その内容は資産買入基金の増額や、国債買入に関しても期間を設けないことなどを含め、何らかの変更も想定される。超過準備の付利撤廃についても議論される可能性がある。物価目標が達成されるまで、このような追加の緩和策が政府からも要求されよう。このあたり、ショイブレ財務相の言うところの中央銀行の政策についての誤った理解が政府側にあったとすれば、今後の日銀の金融政策は大きなリスクも孕みかねない。国内はアベノミクスに浮かれているが、ショイブレ財務相の見方にも耳を貸す必要があろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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