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補正予算による国債発行計画の修正

久保田博幸金融アナリスト

1月15日に政府は2012年度補正予算案を決定した。総額は13兆1054億円となり、2009年度第一次補正の総額14.7兆円に次ぐ過去二番目の規模となる。ただし、2012年度の国債利払い費が当初予算の歳出から2兆円余り減額されたことで、一般会計の補正規模は10兆2027億円となる。補正後の一般会計総額は100兆5366億円と過去三番目の大きさに。今回はその使い道等はさておき、その資金繰りとこれによる今年度の国債発行計画の修正についてみて見たい。

補正予算の歳入の部分は、税収2610億円、税外収入1495億円、「公債金5兆2210億円(建設国債5兆5200億円、赤字国債は2990億円減)」、前年度剰余金8706億円、前年度剰余金受入(復興財源)1兆1165億円、「年金特例公債金2兆5842億円」となる。

これにより2012年度の国債発行額は、建設国債が5兆5200億円増加して11兆4290億円となり、赤字国債は2990億円減少して38兆360億円となる。つまり新規国債と呼ばれる部分は、このふたつの国債を合計した49兆4650億円となる。(財務省の資料、「平成24年度国債発行予定額」を参考)

そして、年金特例公債2兆5842億円とは、基礎年金の国の負担分を二分の一に維持するための財源となる国債である。

復興債は2790億円減額して2兆4033億円、財投債はかわらずの15兆円、借換債は1兆2309億円減額(このうち復興債の借り換え分減額が9358億円)され、111兆741億円に。

以上の国債発行額を合計すると2012年度の国債発行総額は180兆5266億円となり、当初予算から6兆2953億円増加する。しかし、不必要になった復興債や借換債のうち復興債分での減額調整分が約1.5兆円あったことで、当初想定されていた7.8兆円規模からかなり減額された。

この補正予算にともなう今年度の国債発行計画も修正された。これは「カレンダーベースの市中発行額」の部分で、その数字は149兆4000億円となり、当初予算の149兆7000億円からむしろ3000億円「減額」されている。国債発行額が6.3兆円も増加したのに、なぜカレンダーベースの発行額は減少したのか。

そもそもカレンダーベースとは何かということが、なかなか理解しづらいかもしれない。年度の政府予算が決まって、それによって国債の発行額が決まっても、そのすべてが市中消化、つまり入札等で機関投資家などに買ってもらうわけではない。その理由のひとつは、市中消化以外に個人向け国債などの個人向けの販売分とともに、日銀乗換があるためである。日銀が保有している国債(基金の分は除く)は満期償還を迎えると、1年間に限って現金償還を延長し、現金の代わりに短期国債を発行し、それを日銀が引き受けるというものである。さらに国債の発行には赤字国債の出納整理期間内発行と、借換債の前倒し発行があり、こちらでやり繰りが可能となっているためである。実はこちらの影響がかなり大きい。

出納整理期間内発行はのちほど説明するが、前倒し発行とは大量の国債発行を円滑に行うために、借換債は年度を越えて前年度に前倒して発行ができるというものである。これは翌年度の国債発行額を多少なりとも減額させられるときには借換債を前倒しで発行し、国債の安定消化を図るように調整するためのものである。

さて話を補正予算に戻すと、「平成24年度国債発行予定額」の消化方式別発行額によると、この中で第二非競争入札分が当初見込みよりも2兆476億円分上方修正されている。第二非競争とは国債市場特別参加者が、財務省が各特別参加者ごとに設定する応札限度額まで応札することができるという仕組みの入札方式である。つまりそれだけ国債への投資家の需要が強かったということにもなる。これも国債発行額の減額要因となった。

そして年度調整分というのが、5兆1477億円ある。これが「出納整理期間内発行」分となる。つまり今年度の国債発行分の一部を、出納整理期間である今年の4月から6月に先送りするものである。赤字国債の発行にあたっては、国会の議決を経た範囲内で、税収等の実績に応じ発行額を極力抑える必要があるとして、毎年度の税収の収納期限である翌年度の5月末までの税収実績等を勘案して、特例国債の発行額を調整するため、特例国債の発行時期を翌年度の6月末までとする「出納整理期間発行」の制度が設けられている。特例法にもあるようにその期間における(つまり4月1日から6月末)国債発行による収入は、3月末までの予算計上年度のものとし、これは会計年度所属区分の特例規定となっている。

第二非競争入札分が予想より多かった分と出納整理期間内発行に回す分が合計7.2兆円程度あり、今年度の個人向け国債の販売が予想より下振れしたことで個人向け販売分の減額分6000億円を差し引いても6.6兆円程度は差し引ける計算になる。それに対して必要額が6.3兆円なので、カレンダーベース(つまり4月~3月の12か月で発行される)国債については、3000億円の「減」ということになる。

カレンダーベースの発行額については、今年度の5年債を2月から毎月2000億円ずつ増額し、10年債は同1000億円増額する。その上で、9000億円の発行予定であった6か月物のTBの発行を見送る。これについては、来年度は借換債が増える見込みであり、これを考慮して6か月物の発行は見送るようである。

今回は予想されていたような超長期債の増額も見送られた。今後は、出納整理期間内発行分として5兆円規模で来年度の発行に先送りされた部分も加わり、来年度予算編成にともなう4月以降の国債発行計画が進められる。今後はこちらの動向も注目されよう。来年度予算の政府案は、今月29日にも閣議決定する方向のようである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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