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「カジノで景気が良くなる」はフェイクだ! カジノ阻止を目指し大阪で住民投票を求める署名運動がスタート

幸田泉ジャーナリスト、作家
大阪府庁前で行われた署名運動のスタートアクション=3月25日、筆者撮影

 大阪でカジノ誘致の賛否を問う住民投票の実施を求める署名集めが3月25日、スタートした。地方自治法12条の規定に基づき、大阪府に住民投票を行う条例制定を求めるもので、府内有権者の50分の1(約15万人)以上の署名が集まれば、吉村洋文・府知事は府議会に条例案の議案を提案しなくてはならない。法定署名期間は5月25日までの62日間。

 署名運動をするのは「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」。この日は正午から大阪府庁前でスタートアクションがあった。「止めようカジノ」の幟旗が並ぶ中、次々に市民がマイクを握り「カジノで景気は良くならない」「カジノは大阪の子供たちを幸せにしない」などと訴え、目標署名数を集めることを誓い合った。

 カジノを含む大阪のIR(統合型リゾート)は、大阪湾岸の埋め立て地「夢洲」に建設されるが、昨年末に、大阪市が約790億円かけて液状化対策や汚染土壌の改良を行うと公表。それまで吉村知事や松井一郎・大阪市長は「IRは民間企業の投資」と公費負担がないことを強調してきたが、国への申請が今年4月末に迫る土壇場になって話が変わったのだ。さらに、今年2月15日に大阪府、大阪市とIR事業者の間で締結した「基本協定」は、地盤改良や交通インフラ整備にさらなる巨額の公金投入が危惧される内容になっており、今、IR計画に対しては「本当に地元住民にメリットがあるのか」との不信感が広がっている。

IRの区域整備計画を国に申請することを議決した大阪府議会=2022年3月24日、大阪民主新報社提供
IRの区域整備計画を国に申請することを議決した大阪府議会=2022年3月24日、大阪民主新報社提供

 このような状況にもかかわらず、3月24日、大阪府議会は府がIRの区域整備計画(具体的な事業計画)を国に申請することを議決。3月29日の大阪市議会で「大阪府が区域整備計画を国に申請することに同意する」議案が可決されれば、国への申請が決まる。申請の締め切りは4月28日で、署名集めの真っ最中に国への申請が行われるとみられる。

「受任者」の人数が成否のポイント

 地方自治法12条で規定された住民が条例の制定や改廃を求める「直接請求制度」は、大都会では法定の必要署名数が膨大になるため実現が難しいとされてきた。大阪で直接請求署名運動が行われるのは昭和52年以来、45年ぶりだ。「もとめる会」の共同代表らも事務局メンバーも誰一人、経験したことがない。大阪府の法務課に何度も足を運んで詳細を詰めてきたが、法務課職員も実務解説書と首っ引きで勉強しながらの対応だった。

 仕組みとしてはまず、署名を集めて大阪府に提出する「請求代表者」を決め、署名収集開始の日までに吉村知事から「この人は請求代表者です」と認める証明書の交付を受けなくてはならない。請求代表者から委任を受けた「受任者」も署名収集ができる。受任者は大阪府や選挙管理委員会に届け出る必要はなく、署名簿の受任者欄に住所や名前などを書けばいいだけなので、事実上、この受任者を何人獲得できるかが収集署名数を左右することになる。

 「もとめる会」では1万人の受任者を目指す。必要署名数は15万筆だが、選挙管理委員会のチェックで「署名の住所地に住民票がない」「外国籍で選挙権がない」などの理由から無効とされてしまう署名が一定数あると想定し、目標署名数を20万筆に設定した。1万人いれば1人20筆の署名収集で20万筆になるため、署名運動成功は現実味を帯びる。

「自署」だらけの前近代的ルール

 請求代表者に話を戻すと、法律上、請求代表者は1人でもよく、「もとめる会」では当初、数人の請求代表者を予定していた。しかし、実務が紐解かれていく中で、請求代表者は受任者への委任状に自筆で署名しなくてはならないことが判明。そこで急きょ、請求代表者になってくれる人を募り、計50人集めた。

受任者への委任状に自署する請求代表者=2022年3月19日、筆者撮影
受任者への委任状に自署する請求代表者=2022年3月19日、筆者撮影

 では、受任者が1万人として、請求代表者は1人200枚の委任状に自署すればいいかと言えばそうではない。「もとめる会」の事務局では、15万筆の署名を集めるために10万冊の署名簿が必要と見込んだ。受任者になる精神的ハードルを低くしようと「自分と家族の署名だけでもいい」と呼び掛けているので、夫婦2人暮らしなら1冊の署名簿に2筆しかないからだ。10万冊の署名簿の大半に委任状を付けるのならば、請求代表者は1人約2000枚の委任状に自署しなくてはならない。

 請求代表者による委任状への自署は3月19日から始まった。「もとめる会」の事務所でせっせと自署する請求代表者の男性は「1時間で処理できるのは100枚ぐらい。かなり腕がしんどいが仕方ない」と話した。

署名簿作成も大仕事

 署名運動と言えば、紙一枚の署名用紙が一般的だが、直接請求署名運動の署名簿はほとんどブックレットのような厚みがある。表紙に始まり、請求の趣旨などを書いた「条例制定請求書」、請求代表者の証明書、住民投票条例案、受任者への委任状、最後にようやく「署名用紙」がある。

 吉村知事が交付する「請求代表者の証明書」は、署名収集開始日の3月25日朝に交付された。大阪府庁で証明書を受け取った後、大急ぎで10万枚印刷し、署名簿を仕上げる作業に入った。署名収集期間は62日間しかないので、一刻の猶予も許されない。3カ所に分かれて一気に作業を進めた。

 「もとめる会」の共同代表の1人、フリージャーナリストの西谷文和さんは「ロシアのウクライナ侵攻についてロシア国営放送はプーチン大統領のフェイクニュースを流し、これを信じ込んでいるロシア国民もいる。大阪府民は『カジノで大阪が成長する、景気回復する』というフェイクを信じてはならない。この署名収集は短期決戦、力を合わせてやり切ろう」と呼び掛けている。

「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」のホームページ

https://vosaka.net/

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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