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1500億円の市有財産を「寄付」する大阪市の高校移管問題が住民訴訟へ

幸田泉ジャーナリスト、作家
大阪市淀川区の大阪市立東淀工業高校=筆者撮影

 大阪市立の高校22校が来年4月1日に大阪府に移管される問題で、大阪市民5人で作る「大阪市民の財産を守る会」は10月7日、大阪地裁に住民訴訟を提訴した。筆者も原告の1人である。大阪市監査委員に住民監査請求を行い、先月「棄却」の結論が出たため、住民訴訟に踏み切った。この高校移管では、市立の高校の土地、建物はすべて大阪府に無償譲渡されるが、大阪市公有財産台帳で計約1500億円の巨額財産である。法廷では、「二重行政解消」の方針のもと、大阪市の財産や権限が大阪府に移し替えられる府市の異常な関係を法廷で明らかにしていく。(※大阪市立の高校は現在21校。うち3校の再編整備により、来年4月時点では一時的に学校数が増え22校になる)

大規模な高校移管は大阪都構想が発端

 明治からの伝統を持つ大阪市立の高校を大阪府に移管する計画が持ち上がったのは、大阪市を廃止する「大阪都構想」の実現に向けて行政が動き始めた頃である。2011年12月、大阪府と大阪市は共同で「大阪府市統合本部」を設置。府市統合本部とは2015年に大阪都構想が実現して大阪市が廃止されるのを前提とし、府立と市立で役割の類似する施設やサービスに短絡的に「無駄な二重行政」のレッテルを貼るという特殊なミッションを行う組織だった。

 それに基づき、大阪府知事、大阪市長ら府市幹部が出席する「府市統合本部会議」は2014年1月、「新たな大都市制度への移行時期に合わせ、市立の高校を府に移管する」との方針を決定。新たな大都市制度とは大阪都構想を指す。大阪都構想が実現すれば大阪市は廃止されるので、市立の高校は府が運営するとしたのが「高校移管」であった。

 大阪都構想は2015年と2020年、大阪市民を対象とした2度の住民投票で否決されてとん挫した。ところが、2020年11月1日の2度目の住民投票後、吉村洋文・大阪府知事と松井一郎・大阪市長は、大阪市の都市計画権限を大阪府に委託する条例の制定や、大阪市立の高校の大阪府への移管など、大阪都構想の「分割実施」のような施策を次々と打ち出した。「大阪市廃止」は住民投票に阻まれるので、大阪市の権限や財産を個別に大阪府に移し替えようというのである。政令指定都市としての大阪市の存続を選んだ住民投票の民意をないがしろにしているとしか言いようがない。

「市長の裁量」で行われる1500億円の巨額寄付

 新型コロナウイスル禍で実施された2度目の住民投票のドサクサを狙うかのように、2020年11月、大阪府市両議会に高校移管に関する議案が上程され、同年12月、可決された。これにより、高校移管は議会の承認を得たとして現在、市教委と府教委は移管作業を進めているが、大阪市議会は市立学校設置条例を改正して「市立の高校廃止」を決め、大阪府議会は府立学校条例を改正して「新しい府立高校の設置」を決めただけである。市立の高校の土地、建物を府に無償譲渡する議案は上程されていない。

 地方自治法では、普通地方公共団体の譲与(寄付)は、条例で定めるか議会の議決が必要とされており、大阪市は大阪市財産条例を適用するとして、無償譲渡に関して市議会の議決を採らなかった。適用したのは市財産条例16条「普通財産は、公用または公共用に供するために特に無償とする必要がある場合に限り、国または公法人にこれを譲与することができる」である。「特に無償とする必要がある場合」だと判断するのは大阪市長なので、1500億円の巨額市有財産を大阪府に「ただであげる」のを松井市長の裁量で行うということだ。このやり方が通用するならば、1兆円でも2兆円でも市有財産を寄付することができるし、相手は大阪府でなくてもどこでもいいということになる。

 住民訴訟の原告は、訴訟の前段の住民監査請求で「1500億円の巨額寄付に市財産条例16条を適用するのは誤りで、議会の議決が必要な案件だ」と主張した。これに対し、大阪市監査委員は注目すべき判断をした。

住民監査請求で監査委員は市財産条例適用を否定

住民訴訟の提訴後、記者会見する「大阪市民の財産を守る会」のメンバーと代理人弁護士=2021年10月7日、大阪司法記者クラブで。「大阪市民の財産を守る会」撮影
住民訴訟の提訴後、記者会見する「大阪市民の財産を守る会」のメンバーと代理人弁護士=2021年10月7日、大阪司法記者クラブで。「大阪市民の財産を守る会」撮影

 住民監査請求の結果は9月24日に公表された。請求には理由がないとする「棄却」の結論だったが、判断内容を見ると大阪市の言い分を丸飲みしてはいない。大阪市が市財産条例16条を適用し、市長の裁量で高校の土地、建物等を無償譲渡することはできないと明確に否定したのだ。以下、監査結果を引用する。

「大阪市財産条例第16条は、施設移管に伴う極めて大規模な財産の譲与などについて、条例制定時において想定されていたとは到底考えられず、市長の判断で譲与を行うことは、同条項の適用が予定されている範囲を超えるものと解さざるを得ない」

「本件譲与については、その規模からもおよそ前例のない異例に属するものであることは明らかであるから、大阪市財産条例第16条による市長の判断での譲与は許されず、議会の議決が必要であると考える」

 大阪市議会は高校の不動産の無償譲渡を議決していないので、「本件は違法」の結論になりそうなものだが、議決について監査委員はかなり強引な判断をして違法性なしと結論づけた。議会に対しては、この高校移管では不動産を無償で譲渡すると説明されており、無償譲渡の必要性などを市議会で質疑、討論していることなどから、昨年12月の市議会の「市立の高校廃止」の議決は不動産を府に無償譲渡することも含めて議決したとみなせるというのである。この解釈が成り立つならば、議会の議決とはいったい何をどこまで議決したのか線引きがあやふやになってしまい、行政や議会が恣意的に線引きすることもできる。

 住民訴訟で原告側は「高校の不動産を無償譲渡する議決はしていない」と主張する予定であり、議決の有無は重要な争点になるとみられる。「市長の裁量」で巨額財産を手放す議会軽視の行政、自ら進んで市有財産を棄損する今の異常な大阪市政の実態もつまびらかにしていく。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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