大阪都構想は年度越えで膠着の公算大。統一地方選をにらむ公明党の反目で維新の目論見崩れる

法定協議会の終了後、難しい表情で記者会見する松井知事(左)と吉村市長=筆者撮影

 大阪市を廃止して特別区に分割する「大阪都構想」の協議が、年度内にはまとまらない公算が大きくなってきた。大阪市を幾つの特別区に分割するのかなど大阪都構想の設計図である「特別区設置協定書」の内容を決める「大都市制度(特別区設置)協議会」(通称、法定協議会)で、大阪都構想を看板政策に掲げる与党「大阪維新の会」に対し、大阪市の廃止に反対する自民党、公明党など野党会派が特別区設置協定書案の強引な取りまとめを阻止するべくスクラムを組んでいるからだ。

紛糾が続く大阪都構想の法定協議会

 法定協議会は大阪府市両議会の議員と松井一郎知事、吉村洋文市長の計20人で構成。今年は既に3度開催されたが、維新府議の今井豊会長による会議開催の日程調整や議事進行が強引で恣意的だと野党議員から抗議が噴出。今井会長や松井知事ら維新のメンバーと、自民、公明両党の「連合軍」との間で何時間も議事進行に関する言い争いが続き、特別区設置協定書の協議に入らないまま物別れに終わっている。

 法定協議会で松井知事は、発言中の自民党議員を「アホか」と罵ったり、「うるさい、黙っとけ」「君には議員の資格がない」とあからさまな上から目線の“排除”ぶりで、自民党議員の怒りの炎に油を注いでいる。

 一方、会議運営に抗議して政策論議をしようとしない公明党議員に対して松井知事は、「ちゃんと(大阪都構想の)中身の議論をしましょうよ」「公明党さんが熟議が必要と言うからこんなに時間を取ったんです。時間がもったいない」などと説得を続けたが取り合ってもらえず、1月29日の法定協議会終了後の記者会見では「議員の本性が如実に表れてきた」「すごい嫌がらせで信じられない」と憤懣を露わにした。

 大阪府市両議会でも法定協議会でも維新は最大勢力だが過半数なく、何事も維新単独では「可決」できない。中でも自民党と共産党が「反対」で維新とガチンコ対決している大阪都構想については、これまで公明党の協力なしには前に進まなかったし、それは松井知事らも認めている。

どんでん返しの連続だった大阪都構想

 もう10年近く大阪に巣くっている大阪都構想は、政令指定都市の大阪市を廃止し、大阪府に財源と権限を移譲する「大阪府独裁構想」であり、「大阪市民が住民自治を失う」との観点から公明党も含めて野党会派はすべて反対してきた。2014年7月、維新は特殊な戦術で法定協議会から野党議員を追い出し、維新のメンバーだけでギリギリ過半数の出席を確保して、大阪市を五つの特別区に分割する特別区設置協定書案を可決した。しかし、同年10月、大阪府市両議会は特別区設置協定書を否決。次のどんでん返しは、この年末に行われた衆院選を巡る政治的駆け引きで維新が公明党をねじ伏せたことだ。大阪の公明党の地方議員らは煮え湯を飲む思いで協力することとなり、2015年3月に大阪府市両議会は前年に否決した特別区設置協定書案を公明党と維新の賛成で可決した。しかし、大阪都構想の最終手続きである2015年5月に行われた大阪市民対象の住民投票では、公明党は支持者らに「賛成」の投票を呼び掛けることまではしなかった。結果、住民投票は反対多数となって市民の手で葬られたのだ。

 ではなぜ今もまだ大阪都構想の設計図を決める法定協議会が開催されているかと言えば、2015年11月の大阪府知事、大阪市長のW選挙で維新候補が当選し、住民投票とW選の結果がねじれたためだ。松井知事と吉村市長は「大阪都構想に再チャレンジを公約に掲げて当選した」というのを最大の根拠として大阪都構想を蘇らせ、またもや公明党の協力で2017年5~6月、法定協議会の再設置を大阪府市両議会で可決し、現在に至る。

昨年末から維新VS公明の構図に

 大阪都構想を復活させた維新だが、昨年末から再挑戦の道筋に誤算が生じた。

 昨年11月に万博誘致が決まった時は、この勢いで年度内に法定協議会で大阪都構想の特別区設置協定書案を仕上げて2度目の住民投票に目途を付け、4月の統一地方選は大阪都構想の実現と万博の成功という二つを掲げて圧勝する――という流れになるかと思われた。

 しかし、昨年末に松井知事らと公明党大阪府本部の幹部とで持たれた会合では、大阪都構想への協力に公明党側が首を縦に振らず決裂。怒った松井知事と吉村市長は、2017年4月の段階で公明党大阪府本部との間で「(2度目の)住民投票の実施に協力する」という密約があったのをマスコミに暴露し、公明党が約束を守らないなら知事と市長が揃って辞職し、統一地方選と同時期にW選挙に持ち込むと宣言した。

 選挙をテコに政策をゴリ押しする維新の常套手段を使ってみたものの、公明党が候補を立てない知事、市長選では揺さぶることができず、むしろ、公明党の態度はますます硬化した。

 このまま公明党が維新に協力しない姿勢を貫けば、議会で過半数がない維新は何も決定できない。

 現状は「維新政治、崩壊の序曲」なのか、大阪の政局をウオッチしている関西学院大の冨田宏治教授(政治学)に聞いたところ、「もともと公明党が抱えているジレンマに大きな変化はない」と冷静だ。「公明党が大阪都構想に反対なのは間違いないけれど、一方で、衆院選挙で大阪府内の小選挙区のうち公明党の定席である3、5、6、16区は、自民党と維新が候補を立てないという選挙協力によって確保できているわけで、この4選挙区に維新の候補を立ててほしくないという切実な希望もある」とし、「今春の統一地方選で維新の力が本当に弱っていると見切れば、決定的な決裂に踏み込むこともあるだろうし、逆に維新が健闘すれば関係を修復する余地を残していると見るのが妥当でしょう」と言う。

今春の統一地方選が関ヶ原か

 大阪府市両議会の維新議員らは、各選挙区でトップ当選している議員が多く、普通ならば今春の統一地方選で維新が大幅に議席を失うとは考えにくい。大阪で今春の統一地方選が政局の軸となる理由は一つ。「大阪維新の会」の創設者であり、大阪府知事、大阪市長を歴任した橋下徹前代表が政界を引退して初めての統一地方選なのだ。

 2010年に旗揚げした地域政党「大阪維新の会」が爆発的な勢いで議員数を増やしたのは、一重にタレント弁護士出身の橋下前代表の発信力と知名度によるもの。今の維新の地方議員たちは「橋下旋風」に乗って当選した議員が大半だ。

 2015年11月の知事、市長のW選挙でも、当時、橋下前代表はまだ現職の大阪市長であり、同年5月の住民投票で敗北して政界引退を宣言していたものの、2期目を目指す松井知事と市長後継者の吉村市長の選挙戦を精力的に応援した。

 橋下前代表が登場する維新の街宣活動は群衆から歓声が上がったが、今、松井知事と吉村市長が登場する街宣活動にかつての賑わいがないのを見ると、維新の地方政治家にとって初めての「橋下ナシ」選挙がどうなるのかは、公明党だけでなくあらゆる政党が注目している。

 2011年以降の当選した維新の議員たちは「大阪都構想」を掲げて当選してきた。今のまま公明党が維新に反目したままなら、特別区設置協定書は出来上がらず、住民投票の予定も立たない。維新の地方議員らの統一地方選は、橋下前代表がいないのに加え、大阪都構想という看板政策実現の見通しもない、3度目の選挙で維新という名前に新鮮味もない、ないない尽くしの選挙戦となる。

 だからこそ、法定協議会で今井会長や松井知事は「自身の任期中に特別区設置決定書をまとめるのが議員の職責だ」と屁理屈をこねて野党議員らに早急な決着を迫り、何とか大阪都構想に目途を付けようとしているのだ。

 紛糾する法定協議会で今井会長は「次の選挙で自信を持って通るっていうの誰もおらんやろう?」と挑発的に述べたが、この言葉にすべての事情が集約されている。