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金否定論者のバフェット氏が、金鉱山会社の株を買った意味

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが、今年4~6月期にウェルズ・ファーゴやJPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックスなど大手銀行の株式を一部ないし全部売却する一方、カナダの産金大手バリック・ゴールドの株式2,090万株、5億6,360万ドル(約600億円)相当を取得していたことが、米証券取引委員会(SEC)の開示資料(13F)において明らかになった。

バフェット氏と言えば、マーケットでは過去何十年にもわたって金に対して否定的な見解を示し続けてきたことで知られている。例えば、1998年には「有用性はない(It has no utility.)」として、「アフリカやそこらの地面を掘って、溶かして、別の穴を掘って、また埋めて、それを守っている」のを繰り返しているだけとしている。また、「人々が恐怖を抱くようになれば儲かり、恐怖が薄れれば損をするが、金自体は何も生み出すことはない」として、恐怖心の強弱度合いによって価格が揺れ動くだけであり、金は新しい価値を生み出す資産ではないとの認識を示していた。

過去の株主宛のレターにおいても、金価格が上昇することはあっても、この「魔法の金属」は「アメリカ人の気質に合わない(no match for the American mettle)」とまで言って、金よりも株式に投資する有効性、優位性を訴え続けてきた。

もちろん、「金鉱山株」と「金」は同じものではない。金それ自体は配当や金利を生み出すことはないが、バリック・ゴールドは事業によって利益を生み出すため、収益が上がれば配当などの株主還元が行われ、企業価値が向上すれば株価も上昇する。同じく著名投資家であるジョージ・ソロス氏は金上場投資信託(ETF)で直接投資に踏み切ることも少なくないが、この点ではバフェット氏は依然として金投資に対しては否定的ないしは慎重と言うこともできる。

しかし、金鉱山会社の収益が金価格動向の強い影響を受けることを考慮すれば、バフェット氏の今回の取引は、マーケットの金に対する見方が大きく変わっていることを象徴するイベントの一つと評価できそうだ。米経済成長から大きな恩恵を受ける銀行株を大量に売却してまで、金鉱山会社の株式を購入したことは、同氏が米経済やドルなどの先行きに対して、不安を抱き始めている結果と言えるのかもしれない。

新型コロナウイルスの影響で米経済は大きなダメージを受ける一方、政府は過去最大規模の債務を抱える形で大型景気対策を打ち続け、米連邦制度理事会(FRB)は強力な金融緩和でドルの供給を増やし続けている。この状況の持続可能性が問われているのかもしれない。

マーケットでは、「あの」バフェット氏までもが金鉱山会社への投資に踏み切ったことで、金市場の過熱化が極まっているとして、短期的な売りシグナルとみる向きもあるが、今年89歳の「オハマの賢人(Oracle of Omaha)」が下した新たな投資判断が注目を集めている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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