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原油高の不都合な真相、ヘッジファンドの買いは早くも撤退中

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

原油価格は「経済の体温計」とも言われ、NY原油先物価格が4月に1バレル=マイナス40.32ドルを記録してから、5月後半に30ドル台後半まで切り返していることは、投資家マインドの改善に寄与している。新型コロナウイルスによる需要崩壊の影響もあって、売り手が買い手に資金提供を迫られる異常な状態が解消され、依然として安値圏とは言え約2カ月ぶりの高値を更新していることは、株式市場などでも好意的に評価されている。

もちろん、過度の原油高は経済活動を抑制するが、あまりに安過ぎる原油価格も問題であり、アフター・コロナウイルス時代の適正価格を模索する動きは、経済や金融市場の安定化に寄与している。

原油需給の視点では、1)新型コロナウイルスの行動規制緩和による需要環境の改善、2)石油輸出国機構(OPEC)プラスが5月1日から協調減産を再開したこと、3)米国やカナダなどの産油量が大きく落ち込んでいることなどが、供給過剰状態の是正を促している影響が指摘されている。需要と供給の双方から在庫積み増し圧力が発生した状況を解消する動きが、原油高の原動力の一つであることは間違いない。

一方で、原油価格の先高感が強くなっているかと言えば、そこまで楽観的ではない。実は、5月の原油価格上昇の過程において、ヘッジファンドなど投機筋は原油市場からの資金引き揚げを加速しているのだ。

米商品先物取引委員会(CFTC)によると、大口投機筋の買いポジションは、4月28日時点の73万7,778枚から、直近の5月19日時点では69万2,017枚まで縮小している。原油価格がマイナス化する過程において、短期投機筋は安値を買い拾う動きを見せたが、5月の反発局面において、過去1カ月半にわたって積み上げてきた買いポジションの解消が早くも行われている。原油価格がほぼゼロになる過程では物色妙味が高まったが、30ドル前後の価格水準では一段高を狙うよりも、利益確定が急がれている。

ではなぜ原油価格が上昇しているのかと言えば、原油価格が急落する過程で売り込んでいた向きの撤退(=買い戻し)である。大口投機筋の売りポジションは、5月5日時点の19万2,300枚がピークであり、直近の5月19日時点では14万8,414枚まで減少している。すなわち、予想以上に早く原油の供給過剰を解消する動きが強まったことで投機筋が原油売りから撤退している。

新型コロナウイルスの感染被害が終息に向かっているとは言え、市民の行動様式が大きく変わってしまえば、輸送用エネルギー需要は元の水準に戻らない可能性もある。新型コロナウイルスの第2波に対する警戒感がくすぶり続ける一方、景気の急減速も原油需要を抑制する。一方、原油価格の上昇が続くとOPECプラスの協調減産の規模縮小の議論が活発化し易いことに加えて、米国のシェールオイル産業では改めて投資が活発化することで、想定されていた減産圧力が発生しない可能性もある。

原油価格は新型コロナウイルスに伴うショックのピークを脱した可能性が高い一方、急落前の50~60ドル水準を回復できるとみている向きは、少数派であることが窺える。見掛けの値動きほどには、原油価格の安値修正のエネルギーは強くなっていないのかもしれない。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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