Yahoo!ニュース

原油価格暴落でも買い手不在の理由、もはや価格の問題ではない

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

NY原油先物価格が急落ではなく、暴落している。受け渡し期間が最も短い期近物(5月限)は、4月17日終値が1バレル=18.27ドルだったのに対して、週明けのアジアタイムには15.00ドルの節目を割り込み、欧州タイムには13ドル台も割り込む展開になっている。本稿執筆時点(日本時間4月20日21時)の安値は12.41ドルであり、1日に満たない時間で3割以上の値下がり圧力が発生している。期近ベースでは、1999年3月以来の安値を更新している。

画像

背景を解説すると、「誰も原油を欲しいと思っていない」ためだ。5月限は4月21日が取引最終日だが、手元の原油を売却したい向きが多い一方、原油を手元に確保したい向きが少なく、「買い手市場」の中で値崩れが起きているのだ。

新型コロナウイルスの影響で原油需要は崩壊している。米国のガソリン需要は前年同期比で4割以上の減少になっており、製油所は稼働率を引き下げている。このため、原油の余剰分が在庫として積み上がっており、NY原油先物の受け渡し場所であるオクラホマ州クッシング地区の原油在庫は、2月28日時点の3,720万バレルに対して、直近の4月10日時点では5,500万バレルまで急増している。このままだと貯蔵能力の限界を迎えるのは時間の問題であり、原油在庫を保管している向きは、安値でも良いから売却したいと考えている模様だ。

一方で、米国ではトランプ米大統領が新型コロナウイルス対策の移動規制を段階的に解除する方針を示しているとは言え、まだガソリン需要などが正常化に向かう見通しは立たない。このため、需要家も値下りしている原油を購入しても、売却先を確保することができずに保管コストの負担だけを迫られる可能性があり、価格動向に関係なく原油調達に魅力を感じていない。

こうした状態は週明けになって突然に始まったものではないが、21日までに5月限で原油を引き渡すのか、それとも引き受けるのか最後の選択を迫られる中、スポット市場の需給緩和圧力が、原油価格の暴落を促しているのが現状である。

スポット市場では、シェールオイル生産の中心であるテキサス州において、既に2ドルや4ドルといった売買価格の提示が行われているとも報告されている。完全なコスト割れだが、もはや在庫貯蔵能力の限界が見えてくる一方、生産を完全に停止できない以上、いくらでも良いから在庫を手放したいとのニーズが発生している。マーケットの一部では、買い手ではなく売り手が報酬を支払うことで原油を買ってもらう「マイナス価格」実現の可能性さえ、指摘されている。

現在、受け渡しまで更に1カ月の余裕がある6月限は22ドル台中盤であり、12ドル台に突入した5月限と10ドル前後の価格差が存在する。通常だと、足元で5月限を購入し、1カ月後に6月限を売却すれば、在庫保管料や金利負担などを差し引いても利益が出る状況にある。しかし、それでも5月限を購入したいと考える向きが殆ど現れないことは、原油需給が過去に例のないレベルで極端な緩和状態に陥っていることを示している。4月21日に5月限の取引が終わった後に、原油価格が冷静さを取り戻せるかが注目されている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

小菅努の最近の記事