FRBの緊急利下げでも売られた米国株、前回の緊急利下げ後の株価は?

(写真:ロイター/アフロ)

米連邦準備制度理事会(FRB)は3月3日、0.50%の緊急利下げに踏み切った。声明文では、「新型コロナウイルスが経済活動に新しいリスクをもたらしている(the coronavirus poses evolving risks to economic activity)」と理由を記している。パウエルFRB議長も記者会見で、「経済活動にリスクが持ち上がり、産業界も懸念の声を上げている」と解説している。また、「経済を支えるために、政策ツールを用いて適切に行動する」と述べて、追加利下げも辞さない姿勢を強調している。

新型コロナウイルスが実体経済にも深刻なリスクをもたらし、金融市場でも株価が急落するなど不安定な値動きが目立つ中、混乱収束に向けて積極姿勢を示した格好である。教科書的には、利下げによって市場金利を押し下げ、資金調達コストの引き下げによって、企業設備投資や個人消費を刺激することになる。実際に、米10年債利回りは1%台を割り込んでおり、過去最低の金利環境になっている。

しかし、同日の米株式市場ではダウ工業平均株価が前日比785.91ドル安の2万5,917.41ドルと急落している。すなわち、マーケットからは今回のFRBの緊急利下げは歓迎されなかったのである。

理由は幾つか考えられるが、第一に緊急利下げの形式をとったことである。FRBとしては積極姿勢をアピールしたかったのだろうが、マーケットの受け止め方は、「緊急利下げが必要なほどに経済は悪化しているのか」という悲観的なものだった。FRBは3月17~18日に定例会合の開催を予定しているが、2週間も待てないのかと評価されてしまったのだ。声明文では、「米経済の基調は依然として力強い(The fundamentals of the U.S. economy remain strong)」としているが、世界同時金融危機が発生した2008年10月以来の緊急利下げが、マーケットの想定よりもリスクは高まっているのではないかと受け止められてしまった。

第二に、利下げ幅が0.50%と大幅利下げになったことである。通常、FRBの金利変更は0.25%単位で実施される傾向にあり、実際に昨年の3度にわたる利下げはいずれも0.25%だった。しかし0.50%の大幅利下げに踏み切ったことが、「有事」を意識させてしまった。段階的に0.25%刻みで利下げを行うだけでは、対処できないリスクが発生しているのはないかと受け止められている。

第三に、今後の利下げ余地の乏しさである。今回の緊急利下げによって、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は1.00~1.25%まで引き下げられている。これは0.25%の利下げを4回、または0.50%の大幅利下げを2回実施すると、ゼロ金利環境に回帰してしまうことを意味する。今後は経済活動が本格的に停滞し、マーケットが更に不安定化しても、FRBが切ることのできるカードが乏しくなっていることも、警戒感を高めている。

■前回の緊急利下げ後の株価は?

FRBの緊急利下げは2008年10月8日以来のことになるが、その当時のマーケット動向は今後を占う上で参考になろう。08年9月15日に米投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破たんし、米国のみならず世界は連鎖的な信用収縮の波に飲み込まれ、金融危機が発生していた。こうした中、米欧の6中央銀行が0.50%の協調利下げに踏み切ったのが、前回の緊急利下げの経験になる。

その当時の株価をダウ工業平均株価で振り返ると、08年10月7日終値が9,447.11ドルだったのに対して、翌09年3月6日安値6,469.95ドルまで、株価は値下りし続けた。一本調子で値下りした訳ではなかったが、緊急利下げを好感して株価は反発したのではなく、最大で31.5%の急落になったのである。しかも、この際は協調利下げだったが、現在は欧州中央銀行(ECB)も日本銀行も政策調整の余地が乏しく、FRBと協調行動をとれる状況にはない。仮に、前回緊急利下げ後と株価が同じ値動きをすると、ダウ工業平均株価は1万8,000ドル台前半まで値下りする計算になる。

もちろん、「金融危機」と「新型コロナウイルス」を同列に議論することはできず、今後の感染被害の展開状況次第でマーケット環境も大きな影響を受けることになる。ただ、FRBの緊急利下げに対して株価が売りで反応したことは、マーケットの「新型コロナウイルス」に対する警戒感の強さを明確に示したと言えそうだ。