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米中通商合意から間もなく1カ月、上がらない穀物価格

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

1月15日に米中両国は「第一段階の通商合意」に署名した。それから間もなく1カ月が経過しようとしているが、穀物価格は一向に上昇しない状態が続いている。CBOTトウモロコシ先物価格は、1Bu(ブッシェル)=375~395セント水準で完全な膠着状態が続いている。米中間の対立が最も強く警戒されていた昨年9月9日の352.25セントからは価格水準を切り上げているが、10月14日に瞬間的に400セント台に乗せた後は、大きな値上がりも値下りもみられない膠着状態が続いている。

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米中通商合意では、2017年の240億ドルの輸入実績に対して、2020年は追加的に125億ドル以上、21年は195億ドル以上の米国産農産物を追加的に購入することが合意されている。しかし、少なくとも穀物価格の視点では、通商合意の目立った成果は確認できない状態が続いている。

これは、米農務省(USDA)が2月11日に発表した最新の需給報告(WASDE)についても同じである。USDAは毎月1度最新の需給見通しを公表しており、今回は通商合意署名が行われて以降、初めての需給報告発表になる。しかし、2019/20年度の米国産期末在庫見通しは前月の18.92億Buから修正されておらず、少なくともUSDAは通商合意署名で米国産穀物需給環境が劇的に改善するとの見方は支持していないことが確認できる。

この点についてUSDAの首席エコノミスト、ロバート・ヨハンソン氏は、需給報告発表に先立つ6日、今月の需給報告に通商合意の内容は含まれないと説明している。USDAの需給予想には発効済みの通商協定が含まれるとしているが、「我々は第一段階合意の詳細を把握していない」として、直ちに米国産穀物の中国向け輸出見通しを引き上げるような対応は行わないとしている。

確かに中国は米国産農産物の追加的購入を約束しているが、1)いつ、2)どの品目を、3)どれだけの規模購入するのかは、全く分からない状態にある。そもそも、中国が通商合意を順守するのかも疑問視する向きさえある。一般的にこの種の通商合意に際しては、合意に合わせて大規模な購入契約の成約発表などがセレモニー的に行われる傾向が強いが、中国の劉鶴・副首相は通商合意の署名に際して、「市場の状況に基づいて」購入するとして、無条件かつ早期に大規模購入を行うとの市場観測をけん制していた。

しかもタイミングの悪いことに、中国では新型コロナウイルスの感染被害が発生し、穀物需要そのものが想定よりも大きく落ち込むリスクが警戒されている。また、経済活動が停滞する中、穀物輸入ビジネスへの影響にも不透明感が強い。

更に、為替市場では比較的安全とされる米ドルに対する資金流入が強くなっており、米国産穀物が競合するブラジル通貨レアルなどに対して、ドル高傾向が著しく強くなっている。レアルは2月に対ドルで過去最安値を更新しており、米国産穀物の価格競争力は急速に失われている。これから南米産は収穫作業が進んで輸出が本格化するが、米国産穀物が販売先を確保できるのかは不透明感が強い状況になっている。

カドロー米国家経済会議(NEC)議長によると、中国の習近平・国家主席は、トランプ米大統領の電話会談において、新型コロナウイルスの感染被害で通商合意の履行に影響が生じることはないと発言した模様だが、穀物価格の安値膠着状態は中国の米国産農産物買い付けに対する不信感が根強いことを示している。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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