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経済分析よりもトランプ大統領の行動分析が重要な投資環境

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

トランプ米大統領のTwitterを通じた発言内容に、金融市場は振り回されている。8月23日には米ワイオミング州のジャクソン・ホールで開催された経済フォーラムでパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が講演を行っており、本来であればパウエル議長がどのような景気認識を有しており、金融政策の見通しについてどのような示唆を行うのかが注目されるはずだった。マーケットでは9月に追加利下げが行われるのが確実との見方が広がっているが、パウエル議長がこうしたマーケットの見方を追認するか否かは、株価のみならずあらゆる資産価格に大きな影響を及ぼすはずだった。

しかし、これと同じタイミングで中国政府が米国から輸入する約750億ドル相当の製品に5~10%の報復関税を課すと発表すると、トランプ大統領は「米企業に対し中国の代替先を直ちに模索するよう命じる」、「われわれに中国は必要ない。率直に言えば、中国がいない方が状況はましだろう」などと過激な発言をTwitterに投稿し、マーケットの目線を一気に米中対立に向かわせることになった。

世界経済が一段と深刻な減速圧力に晒されるとの警戒感が広がる中、同日の米国株価は急落し、週明けの為替相場では1ドル=105円を下回る急激な円高・ドル安が発生した。ドル建て金相場は1オンス=1,550ドルの節目を突破して2013年4月以来の高値を更新した一方、原油や銅などの景気連動性の高いコモディティ相場が軒並み急落するなど、経済環境の本格的な混乱状況への備えを進めた。

しかし、26日の日本時間夕方にトランプ大統領は「(中国が)米通商交渉担当者に交渉再開したいと昨夜伝えてきた」、「中国と2度電話会談した、中国側は通商協議の合意望んでいる」、「中国とまもなく協議を開始する、合意すると考えている」など、突然に米中通商合意の可能性も示唆する発言を行ったことで、マーケットの地合は一変した。株価が急反発し、ドル/円相場は105円台まで切り返し、金相場が上げ幅を一気に削るなど、マーケットは短い時間に乱高下を迫られている。しかも、中国外務省はこうしたトランプ大統領の発言を否定しており、もはや何が真実なのか分からない状況に陥っている。

確かなことは、今やトランプ大統領が世界経済の命綱を握っていることだけであり、それだけにマーケットは信頼度が低いにもかかわらずトランプ大統領のTwitterでの投稿内容に一喜一憂せざるを得なくなっている。さすがに、マーケットも何度もトランプ大統領の発言に騙されているため、今回も本当に米中通商合意に近付いていると考えている向きは多くない。

トランプ大統領は株価が大きく下落すると弱気、株価が大きく上昇すると強気になる傾向が強く、今回も株価急落に慌ててマーケットにポジティブなメッセージを発しただけの可能性が高い。これで再び株価が上昇すれば、これまでの発言を無視したように再び厳しい対中姿勢を示しても何ら違和感はなく、マーケットも「またか…」と冷静に受け止めるだろう。

経済分析よりもトランプ大統領の行動パターンを読み解くのが、今やマーケットの最大の関心事と言えるかもしれない。今回も、最近のパターン分析から株価急落でトランプ大統領が態度を軟化させるだろうとの予想に基づき、株価やドル/円相場の短期反発を予想した向きも多かった。ただ、トランプ大統領を慌てさせ続けるのであれば、断続的に株価を押し下げるしかなく、徐々に不安の芽は大きくなり始めている。

トランプ大統領は、「株価は自身が大統領選で勝利した2016年11月9日後の上昇で判断されるべきだ」と突然にTwitterに投稿している。同日のダウ工業平均株価の終値は1万8,589ドルであり、23日終値の2万5,628ドルはトランプ大統領が大統領選に勝利する前の水準を依然として大きく上回っている。仮にトランプ大統領が大統領選キャンペーンに突入するに際して、自身の大統領就任中に株価が上昇したとの実績があれば十分と本気で考え始めると、一段と厳しい未来しか描けなくなる。安全資産である金が投資人気を集めているのは当然と言えよう。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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