金価格が高騰している10の理由

(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

金価格の上昇が止まらない。8月8日の取引では東京商品取引所(TOCOM)の金先物価格が1982年の取引開始後の最高値を更新して1グラム=5,128円に達し、年初の4,537円から13.0%値上がりした。国際指標となるCOMEX金先物価格も8月7日の取引で1オンス=1,500ドルの節目を突破しており、2013年4月以来となる6年4カ月ぶりの高値を更新した。

マーケットの世界では、金価格の高騰は好ましい現象とは評価されていない。金は代表的な「安全資産」であり、金を買い求める動きが強くなっているということは、世界の政治経済環境に対して何らかの不安を抱いている向きが多いことを意味するためだ。

では、現在の金価格の高騰は、何を意味するのだろうか。なぜ今、金を買い求める人が増えているのだろうか。

画像

■金価格が高騰している理由

1)世界経済の減速懸念

最も底流にあるのは世界経済の減速懸念だ。もともと世界経済は循環的な減速トレンドに入っていたが、米国と中国という経済大国間で貿易戦争が勃発している結果、想定されていたよりも経済活動が大きく落ち込むリスクが警戒されている。景気減速ではなく、景気後退(リセッション)に陥るのではないかとの懸念も急激に高まっている。

2)世界経済の不透明感

更に、世界経済の不透明感の影響も大きい。トランプ米大統領はTwitterで突然に政策方針を発表し、世界を混乱に陥れている。従来のような政策決定のプロセスを通過せずに、大統領がスマートフォンを使ってTwitter経由で世界に向けて直接的に政策を発表し、それに世界が右往左往する展開が繰り返されている。いつ世界経済を取り巻く環境が一変するのか分からないとの不安心理、先行き不透明感が、金に対するニーズを高めている。

3)金利なき世界へ

こうした世界経済の減速、先行き不透明感の高まりを受けて、各国の中央銀行は利下げなどの政策対応を迫られている。安全資産としての各国国債に対する投資ニーズの高まりもあり、世界の金利水準は急低下している。米国では2年債利回りが年初の2.5%台から1.5%台まで急低下しているが、これは既に米国のインフレ率を下回っている。つまり、国債での運用利回りはインフレによって実質的にゼロ、更にはマイナス化し始めており、金利を生まない資産である金保有の機会コストが低下している。

4)利下げカードを使い果たしたら

また、景気減速局面において利下げ余地の乏しさも警戒されている。世界同時金融危機、更には欧州債務危機後後は十分な利上げを行えてこなかった国が多いため、有事になったからといって利下げ対応の余地は多いとは言えない。このため、早期にゼロ金利、マイナス金利政策の採用を迫られ、量的緩和政策が本格展開されるのではないかとの警戒感もある。世界同時金融危機の際には、米連邦準備制度理事会(FRB)が資産購入に踏み切って流動性供給を行ったことが、「プリントマネー政策」だとして金に対する投資ニーズを急増させた経験があるが、その再現を警戒する向きは多い。

5)ドル安政策への警戒感

金利低下は世界的なトレンドだが、米国はこれまで他国に先駆けて利上げを行ってきた結果、相対的に大きな利下げ余地を残している。また、トランプ米大統領は貿易相手国の通貨安政策を強く批判しており、中国に対しては「為替操作国」の指定を行うなど、強硬姿勢を強めている。米国内ではFRBに対して強力な利下げ対応を要求しており、米国が本格的なドル安政策を採用するのではないかとの警戒感がある。ドルと金とは表裏一体の存在であり、ドルが下落する局面では金価格は上昇し易い。

6)株価水準への不安

ここ最近は米国株が高値から大きく下押しされているとはいえ、まだ過去最高値圏での取引が続いている。業績などと比較した株価の割高感はITバブル崩壊後で最高レベルに達しており、株価が更に大きく崩れるのではないかとの警戒感がある。株価上昇は一見すると安全資産である金の投資ニーズを低下させるが、ここ数年は逆に株価の過熱状態を危険な状態とみる向きが増えている。

7)米国債への不信感

通常だと、投資家が安全志向を高めると、米国債が購入されることになる。実際に、足元でも米国債は投資人気を集めている。ただ、米国債は上述の低金利に加えて、債務膨張の影響で信頼感が低下している。米債務上限問題は、この問題がうまく処理されれば過剰債務に対する警戒感、下手に処理されると米国債の格下げ問題と、どのように展開しても不信感を高めることになる。

8)国際関係の緊張化

トランプ政権は中国との貿易摩擦ばかりが注目されがちだが、実際には欧州、日本などを各国に対して圧力を掛けて自国の利益を確保しようとしている。経済制裁をちらつかせて、各国に強引に政策対応を迫る姿勢に世界は疲弊している。経済制裁は安易に発動される傾向があり、突然に製造業のサプライチェーンや資源調達が困難になるといった混乱も頻発している。また、ブレグジットに象徴される他国間関係の枠組みを見直す動きも、不測の混乱状態を引き起こす可能性がある。

9)地政学環境の不安定化

国際関係の緊張化は単純な経済対立に留まらず、軍事的な脅威も高めている。例えば、米国はイラン核合意から離脱したが、イラン産原油の全面禁輸措置はイランを追い詰めており、ホルムズ海峡付近でイラン軍の活動が活発化している。同地区で有事が発生すると、中東情勢の不安定化に留まらず、世界の原油供給が止まるリスクも抱えている。北朝鮮もミサイル発射を繰り返しており、今後の展開は読みづらい状況にある。

10)中央銀行の金購入

こうした情勢の中、中央銀行は金を積極的に購入している。2018年はブレトン・ウッズ体制崩壊後の最大規模の購入を行ったが、今年もその流れは踏襲されている。中央銀行がなぜ金を購入しているのかは明らかにされないが、米国との関係性、ドルに対する信頼性など幾つかの要因から、外貨準備をドル以外の資産に差し替えたいとのニーズが高まっている。需給の視点でも、金価格は上昇し易い環境にある。

■金価格高騰は警告である

以上は、いずれも最近になって突然に浮上した問題ではない。2016年の米大統領選でトランプ氏が勝利した直後から繰り返し指摘されていたものだが、17年と18年は必ずしも問題が深刻化することはなかった。むしろ、トランプ大統領の強引とも言える経済政策を背景に、経済は過熱感さえも警戒される良好な状態にあった。

しかし、20年に米大統領選を控える中、トランプ政権は一段と内向きになっており、各所で大きな混乱、摩擦を引き起こしている。その代表的なものが足元で再びエスカレートしている米中対立だが、トランプ大統領次第の先を読みづらく、不安定化し易い政治経済環境が、改めて安全資産としての金の魅力を高めている。金価格高騰は、このままだと世界の政治経済環境が大きな混乱状況に陥るリスクに対する警告と受け止める必要がある。