サウジでOPEC解体論、OPECより米国との関係を優先か?

(写真:ロイター/アフロ)

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は11月8日、サウジアラビアが、石油輸出国機構(OPEC)解体が石油市場に及ぼす影響を調査していると報じた。同報道によると、サウジ政府から資金提供を受ける政府系シンクタンクKAPSARCが、過去60年にわたって産油国の利益を守ってきたOPECを解体した際に、石油市場環境がどのように変化するのか、調査プロジェクトが立ち上げられているとしている。

この調査プロジェクトがサウジ政府の意向を受けたものか否かは明らかにされておらず、現時点では必ずしもOPECを否定するものとは言えない。調査結果によっては、逆にOPECやOPEC内でサウジが果たしている役割が高く評価される可能性もある。しかし、このような情報が米系メディアであるWSJ発で報じられたことからは、サウジ内でOPEC加盟の意味について見直しが行われているのは間違いなさそうだ。

なぜこのような議論が浮上しているのかだが、直接的にはトランプ米大統領からの圧力が大きい。トランプ大統領は高金利と同様に原油高にも強い懸念を有しており、OPECについては市場を独占することで不当に原油価格を押し上げているとの批判を繰り返している。特に今年5月以降は、イラン核合意からの離脱で原油価格に上昇プレッシャーが強まったことで、OPECはいたずらに原油価格を押し上げるのではなく、増産対応を行うべきとの厳しい批判を繰り返していた。

OPECサイドとしては、当然に原油価格は高値に誘導した方が好ましく、特にシェールオイルの増産で世界が余剰在庫を抱えた状態が続く中、意図的に供給不足を作り出す方針が採用されていた。象徴的なのが2017年1月にスタートしたOPEC加盟国・非加盟国の協調減産であり、2016年2月に1バレル=26.05ドルまで下落していたNY原油価格を今年10月には76.90ドルまで押し上げることに成功している。

シェールオイル産業が成長分野となった米国にとっても、原油高は必ずしも批判されるものではない。しかし、イラン産原油の供給ショックはトランプ政権によって引き起こされたものであり、しかも米経済成長は今年が当面のピークとなることが確実視される中、2020年の大統領再選を目指していると言われているトランプ大統領にとって、原油高は金利上昇と同様に阻止する必要がある優先度の高い経済テーマの一つになっている。

米議会では、OPEC加盟国を価格操作で提訴できる権限を米政府に付与する「石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案」成立に向けた動きもあり、ここ最近は産油国が原油価格に直接的な言及を行うことを避ける傾向が強くなっている。この議論も、今回のOPEC解体論に影響した可能性があろう。

サウジは、こうしたトランプ大統領の原油高批判に対応するため、段階的に産油水準を引き上げている。ロシアも同様であるが、トランプ大統領の増産要請に対して、サウジ-ロシアのラインが対応した格好になっている。一方で、OPEC内ではイランが増産対応に強力に反発しており、中東地域の覇権争い、イスラム宗派対立などの影響も絡み、不協和音が目立ち始めていた。6月のOPEC総会でも、サウジなどはイラン産原油の供給減少に備えて増産対応を主張する一方、イランは強硬に反発し、原油高のリスクに十分な対応を講じることができなかった。サウジとしては、合意を無視した産油量引き上げを行っている最中にある。実質的には自国の産油政策がOPECの供給水準を決定しているにもかかわらず、OPECが必ずしも自国の意向に沿った政策展開を行えない中、OPECとの関係性よりも米国との関係性を重視する傾向が強くなっている。その延長線上にOPEC解体という歴史的決断が浮上している可能性がある。

■ジャーナリスト殺害事件の影響も

ここ最近の中東地政学環境を概観すると、ロシアのプレゼンスが急激に高まっている。アメリカのオバマ前政権が中東での当時者能力を失いリバランスと呼ばれるアジア太平洋地域重視の戦略に傾斜し、欧州がブレグジットや債務危機で中東情勢に積極的に関与できない状態になる中、グローバル・パートナーシップへの復帰を目指すロシアは中東情勢に積極的な関与を行っている。

こうした中、サウジとロシアも急接近しており、特に17年以降は産油政策でもサウジとロシアが流れを作り、そこにOPECが関与してくる傾向が見受けられるようになってきた。産油量の規模からは、サウジとロシアが協力すればOPECと同等ないしはそれ以上の影響力を市場に及ぼすことが可能であり、サウジとしてはロシアと協調できるのであれば、敢えてOPECに固執する必要性は薄れている。

サウジの産油政策が「OPECとの協調」を維持するのか、「サウジ-ロシアの二国間協調」にシフトするのか、「サウジ単独主義」にシフトするのかは、現時点では分からない。ロシアとの協調が現実的だが、いずれにしても「NOOPEC」と言われるOPECなき(NO)時代が実現するのかもしれない。

トルコ領事館で米国を拠点に活動していたサウジのジャーナリストが殺害された事件の影響も大きい。同国は国際世論から激しい批判を浴びており、投資家も同国から距離を置いている。日本のソフトバンクもサウジの投資計画「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の修正を余儀なくされていることは国内でも報じられている。

国営石油会社サウジアラムコの上場による資金調達計画も、各国の上場基準が厳しく、未だ実現の目途が立っていない。一部では、既に上場計画そのものが消滅した可能性も指摘されている。こうした中、サウジとしては原油価格を巡って米国と対立することは好ましいものではなく、OPEC解体まで議論が進むかは別としても、OPECより米国の意向に配慮して行動する必要性が高まっている。

■石油需要ピーク論もOPEC解体論を後押しか

更に需給面では、石油市場がピークに達するとの警戒感もある。従来、「ピークオイル」と言えば、原油産出量がピークを迎える状態を指していたが、今やエネルギー源の多様化が進む中、原油需要量のピークの方が強く警戒されている。天然ガス、再生可能燃料などがエネルギー市場内での存在感を高める中、例えば英BPは2030年台後半には世界の石油需要がピークを迎えるとの予想を行っている。従来は40年台が予想されていたが、最近の省エネルギー技術の進歩、電気自動車の普及などを受けて、ピーク時期が前倒しされる可能性が高まっている。

こうした中、産油国サウジとしてはOPECとの関係性ばかりに固執できる状況にはなく、「脱石油」に向けての改革を進めている最中である。その意味では、サウジのOPEC解体論とは、サウジが本格的に産油国としての立場を放棄し始めた第一歩とも言えるのかもしれない。