米国の対イラン制裁直前、なぜ原油価格は急落したのか?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

米政府がイラン核合意から離脱を表明し、11月5日からはイラン産原油に対する経済制裁が再開される。日本や韓国、欧州などに加えて、当初はイラン産原油の禁輸に慎重姿勢をみせていた中国やインドなども、ゼロとは言えないがイラン産原油の取引削減に動き始めており、国際原油需給環境には大きな不確実性が浮上している。

イランは石油輸出国機構(OPEC)内でサウジアラビアとイラクに次ぐ産油規模を有しており、イラン産原油が市場から排除された際に、需要を満たす安定供給を確保できるのかは不透明感が強いためだ。更にイランはホルムズ海峡封鎖の可能性も含めた厳しい反発姿勢を見せており、不測の供給障害が中東で発生するのではないかとの懸念も強い。

こうした中、国際指標であるNY原油先物価格は10月3日に1バレル=76.90ドルを記録し、2014年11月以来の高値を更新するなど、強い危機感を示した。このままイラン産原油の供給減少が続けば、もはや国際原油需給のバランスを保つことはできなくなるとの危機感が、原油価格高騰という形で顕在化したと言える。

しかし、実際に米政府のイラン産原油に対する経済制裁が再開されるのを前に、原油価格は急落している。11月1日終値は63.69ドルとなっており、高値から直近安値(63.11ドル)までは17.9%の急落となっている。10月は世界的な株価急落が話題になったが、NY株式相場の下落率は最大でも10.5%であり、原油価格の下落率はそれを大きく上回っている。

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■原油安は、過剰増産が行われている可能性の警告か?

背景の一つが、マクロ需給環境・見通しの変化である。これまで原油市場では、イラン産原油の供給減少分を穴埋めするような大規模な増産対応は難しいとの見方が支配的だった。サウジアラビアやロシアなどが増産余力を残しているとは言え、それは緊急時のバッファ(緩衝材)として使用されるものであり、フル生産は寧ろ原油価格を不安定化させるとの警戒感があったためだ。

しかし実際には、サウジやロシアは急ピッチな増産対応を行っており、実はOPECの産油量は米政府がイラン産原油に対する制裁再開を決めた時よりも、寧ろ上振れしているのだ。10月の公式な産油量は13日に公表されるが、ロイター通信の調査だと10月の産油量は2016年12月以来の高水準に達している。これは、過剰供給と過剰在庫を是正するために2017年1月から主要産油国が協調減産に踏み切ってから最高レベルの産油水準になる。

この結果、国際原油需給は供給「不足」ではなく供給「過剰」になるのではないかとの警戒感が広がっており、それが原油価格の急落を招いている。もちろん、株価急落に伴う投資家のリスク選好性の後退、製油所が秋の定期メンテナンスを迎えているといった季節要因、米中貿易戦争の長期化を受けての需要減退懸念など、原油価格急落の要因は一つに絞れるものではない。だがいずれにしても、突然の原油価格急落からは、原油市場で過剰供給が行われている可能性に警告を発し始めたとみて良いだろう。

実際に10月25日に減産監視閣僚委員会(JMMC)は、OPECのウェブサイト上で、需要と比べて供給が「十分」だとして、在庫増加や景気の先行き不透明感からは、方針転換が必要となる可能性を指摘している。つまり、これまでの「イラン産原油供給の穴埋めのための増産」から「過剰供給阻止のための減産」に、産油政策を180度方向転換する可能性が真剣に議論されている。

サウジアラビアのファリハ・エネルギー鉱物資源相も、これまでは11月に向けて増産を行う方針を示していたが、10月25日にサウジ国営メディアで介入が必要となる可能性を認識していることを明らかにした。しかし、ロシアのノバク・エネルギー相は10月27日、逆に供給不足に懸念を示し、現時点では産油量の凍結も減産もする必要はなく、増産を継続する方針を確認している。

サウジアラビアとロシアの現状認識が大きく異なることは、今後の産油政策で主要産油国間の足並みが乱れる可能性を示唆している。まだOPECサイドも減産対応の必要性を巡る議論を提起したばかりの段階だが、株価反発後に逆に下落ペースを加速している原油価格は、過剰増産が行われている可能性を強く示唆している。12月6日のOPEC総会では2019年も主要産油国が協調減産体制を継続するか否かの結論を出すことになるが、まずは11月11日に行われる次回JMMCで原油市場の発する警告を素直に受け止めて政策対応を講じる動きが強まるか否かに注目したい。