米国がイラン核合意から離脱、不安定化する原油価格

(写真:ロイター/アフロ)

トランプ米大統領がイランに対する経済制裁の再開、イラン核合意からの離脱方針を打ち出したことで、国際原油価格が急伸している。指標となるNYMEX原油先物相場は、1バレル=70ドルの節目を完全に上抜き、2014年11月以来の高値を更新している。イラン産原油の供給不安が高まると同時に、中東の地政学環境の悪化も警戒される中、投機マネーの流入が加速している結果である。

国際エネルギー機関(iEA)のデータによると、3月時点でイランの産油量は日量381万バレルとなっているが、これは世界の総供給量の3.9%をカバーしている。石油輸出国機構(OPEC)内でみても、サウジアラビア、イラクに次ぐ3番目の生産規模を誇っており、仮にイラン産原油供給に何らかのトラブルが生じると、そのインパクトは極めて大きなものになる。

実際の経済制裁再開までは最大で180日間の猶予期間が設定されており、それまでにトランプ大統領の求める核合意の見直しが実現すれば、何ら大きな問題は生じないことになる。トランプ大統領が警戒しているのは、イランが将来的に核弾道ミサイルの開発能力を獲得することであり、こうした米国が核の直接攻撃に晒されるリスクを軽減する方向で調整が進めば、実際の経済制裁再開は見送られ「必要以上の投機プレミアムが加算された状態」とのネガティブな評価に一変する可能性もある。マーケットでも、トランプ大統領の交渉に惑わされているだけといった見方も存在する。

ただ、現時点ではイラン政府は核合意の再交渉には応じない方針を示しており、市場からどれだけの規模のイラン産原油が消滅するのか分からないとの不安心理が、マーケットに広がっている。

今回の対イラン経済制裁はあくまでも米国に限定されており、他国が直接的な影響を受けるものではない。実際に、欧州諸国とイランは核合意の維持を確認しており、直ちに欧州の石油会社がイラン国内における活動に制約を受ける訳ではない。

しかし、米系石油会社がイランの石油開発に携わることは事実上不可能になり、今後はイラン産原油の金融決済規制、イラン産原油を輸送するタンカーの再保険規制、イラン産原油購入国に対する経済制裁など2015年の核合意以前の世界に戻るとすれば、各国が米国の意向を無視してイラン産原油の取引を継続することは難しくなるのは必至である。特にイラン産原油取引にかかわる金融機関に対する制裁は、金融機関のドルへのアクセスを著しく難しくさせるため、核合意以前には決済ができなくなったイランが、原油と武器との直接交換といったイレギュラーな取引を迫られたことは記憶に新しい。

今後は各国が「イラン」と「米国」を天秤にかけてイラン産原油との関係性をどのように見直すのかが問われる局面に移行することになるが、核合意以前の世界に戻るとすれば、最大で日量100万バレル程度の原油供給が市場から失われる可能性がある。

実際には、核合意以前とは異なり今回の経済制裁は米国に限定されるため、従来程の大きなインパクトは生じないといった見方も有力である。日量20万バレル、50万バレルといった供給減少圧力に留まるといった見方も少なくない。また、現在はOPECやロシアが協調減産を実施中のため、仮にイラン産原油供給が落ち込んでも直ちに深刻な供給不足が発生する可能性は低い。

ただ、今後も着実な需要増加トレンドが想定される中、イラン産原油の供給動向次第では、予想外に早い時期に供給不足が発生するのではないか、更にはイランの核開発再開によって、イスラエルなどとの間で軍事衝突が発生するのではないかといった懸念が原油価格を押し上げている。

原油価格が急伸しているとは言え、2014年後半に急落する前の100ドル水準は依然として大きく下回っている。ただ、株式市場では原油高による企業業績のピークアウトを懸念する声が強まり始めており、低インフレ環境が一気に高インフレ環境にシフトする可能性も浮上し始めている。従来は、原油安による産油国経済の不安定化が問題視されていたが、それが原油高による消費国経済の不安定化要因に転換する時期を迎えているようだ。日本国内でも、様々な財サービスに価格上昇プレッシャーが強まる一方で、原油安の恩恵を受けていた景気が減速するリスクへの警戒も必要な状況に変わりつつある。