Yahoo!ニュース

国際原油価格が高騰、2年4ヵ月ぶりの高値

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

国際原油価格が急騰している。指標となるNYMEX原油先物価格は10月上旬の1バレル=50ドル水準に対して、11月22日の取引では一時58.15ドルまで値位置を切り上げている。これは2015年7月以来、約2年4ヵ月ぶりの高値を更新していることを意味する。14年後半に原油相場が急落する前の100ドル前後の値位置は依然として大きく下回っているが、今年6月の42.05ドルからは38.3%の上昇率を記録している。16年2月の26.05ドルをボトムに、着実な安値是正が進んでいることが確認できる。

底流にあるのは供給過剰状態の解消が促されていることであり、「良好な実体経済を背景とした需要拡大」と「石油輸出国機構(OPEC)などの協調減産」によって、世界の過剰在庫が解消方向に向かっていることがある。特に、OPEC加盟国と非加盟国が協調して供給水準を落とし、意図的に供給不足状態を作り出すことで在庫余剰感が解消に向かっている影響は大きい。米国の原油在庫をみてみると、前年同期の4億8,900万バレルに対して直近では4億5,710万バレルまで、1年間で6.5%の圧縮に成功している。まだ在庫の余剰状態に変化は見られないが、シェールオイルの急激な増産で緩んだ需給が正常化方向に向かっていることが、一時20ドル台中盤まで落ち込んでいた原油価格を再び50ドル台まで押し上げている。

画像
画像

■11月30日にOPEC総会が開催される

一方、今年10月に入ってから原油価格の上昇ペースが加速しているが、その一つの要因が11月30日に予定されている第173回OPEC総会である。OPECとロシアなどの主要産油国は今年1月から世界の石油供給の約2%を削減する協調減産を実施しており、現在は2018年3月末までが合意期限とされている。しかし、その期限までに在庫正常化の目安とされる5年平均回帰が実現するのかは疑問視する向きが多い中、同会合では協調減産の延長を巡る協議が行われる予定になっている。

特にOPEC最大の産油国であるサウジアラビアは、9カ月の減産期間延長を主張しており、2018年を通じて協調減産を継続することで、原油需給正常化の流れを決定づけることで、原油価格の安定を実現することを強く望んでいる。国内の財政問題に加えて、2018年には国営石油会社サウジアラムコの株式公開(IPO)計画、更にはムハンマド・サルマン皇太子の権力基盤強化のためにも、原油価格の高値安定化が強く志向されている。

実際に減産期間の9カ月延長が合意できるのかは不透明感が強い。特にOPEC非加盟国で最大の産油国であるロシアが、現在の50ドルを超える原油価格水準で更に減産期間延長を決めることに難色を示しており、11月入りしてからは、この問題の結論が来年まで先送りされる可能性も強くなり始めていた。ロシア国内では、原油価格の回復はマーケットがもはや協調減産を必要としていないことを意味し、寧ろ供給不足への警戒感を表すものだといった意見も散見されていた。10月にはサウジアラビア=ロシアの首脳会合を受けて、プーチン・ロシア大統領も9カ月の減産延長に支持を表明していたが、石油会社の反発によって協調減産体制の継続が危ぶまれていた。

しかしこの問題を協議するために11月21日に実施されたロシアの石油会社の会合では、減産期間の6カ月延長という妥協案が協議されたと報じられている。まだロシアは明確な態度を決めていないが、少なくとも来年9月まで減産期間を延長できれば、減産解除(=増産)によって国際原油需給が再び緩和状態に陥るリスクが大幅に後退することになる。

画像

■米国のパイプラインで漏洩事故

そしてもう一つの原油高の要因が、米国内におけるパイプラインの石油漏洩事故である。11月16日にトランス・カナダ社が運営するキーストーン・パイプラインが米サウスダコタ州で石油漏洩事故を起こしている。農地に5,000バレルの石油が漏洩したとされている。

【キーストーン・パイプラインの敷設ルート】

画像

(画像出所:TransCanada社ウェブサイトより)

当初、この問題は早期に解決されるとみられていた。環境問題への対応は時間が必要としても、パイプラインの稼働に関しては早期に実現するとみられていた。しかし、11月22日にはトランス・カナダ社が顧客向けて月末まで少なくとも85%以上の供給削減を行うと通知したと報じられたことが、改めて原油価格を押し上げている。この報道が事実かは確認が取れていないが、複数の関係者が同様の通知があったことを報告している。

キーストーン・パイプラインの送油能力は日量59万バレルであり、仮に85%の供給削減だと50万バレル程度の供給が滞ることを意味する。これは、カナダから米国向けの原油輸出に障害が発生することを意味し、短期的な供給不足が発生する可能性を高めることになる。

実際に米石油会社フィリップスは、イリノイ州ウッド・リバーの製油所で製油所稼働を引き下げると発表している。本来であれば、この時期は冬の暖房用エネルギー需要期に向けて製油所稼働率は上昇する時期になるが、パイプライン事故によって十分な原油調達を行えない可能性が浮上する中、臨時のメンテナンス計画を入れることで、供給不足に対応することになる。

こちらは、8~9月に大型ハリケーンの相次ぐ上陸で一時的に供給環境が混乱したのと同様に、パイプラインの操業が再開されるまでの時間が限定された上昇圧力に留まる可能性が高い。ただ、NYMEX原油先物市場では、決済期限が短い期近物が期先物に対して急騰傾向を見せている。11月22日の取引でも、2018年1月物が前日比1.19ドル高の58.02ドルとなったのに対して、1年先の19年1月限は同0.56ドル高の54.83ドルに留まっており、短期供給障害への警戒感が著しく高まっていることが確認できる。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

小菅努の最近の記事