シリアへのミサイル攻撃で原油価格が急伸

(写真:ロイター/アフロ)

米国がシリアに対するミサイル攻撃に踏み切ったことを受けて、金融市場は大きな混乱を見せている。シリアでは4月4日に化学兵器を使った爆撃が行われているとみられているが、トランプ米政権が報復措置として巡行ミサイル「トマホーク」59発をシリア軍施設に向けて発射したことで、地政学的リスクが改めて市場関係者の重大な関心事になっているためだ。

教科書通りにリスク資産売り・安全資産買いの動きがみられ、安全性が高いとされる円や金、国債市場などに投機資金のシフトが促され、日経平均株価は年初来安値更新を迫られた。その後はやや落ち着きを取り戻しつつあるとは言え、今後は欧米マーケットの反応が待たれる状況にあり、米中首脳会談や3月米雇用統計といった大きなイベントと同時に、市場関係者は地政学的リスクをどのように評価するのか、情報収集と分析を急がれる状況になっている。

コモディティ市場では、原油価格が大きく上昇したのが目を引く。国際指標となるNYMEX原油先物価格は、4月5日終値が1バレル=51.70ドルだったのに対して、6日のアジアタイムには一時52.94ドル(前日比1.24ドル高)まで急伸し、3月7日以来となる約1カ月ぶりの高値を更新している。

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【WTI原油先物価格(5分足)】

(画像出所:CME)

シリアに関しては、原油供給環境に対する直接的なインパクトは大きくない。BPの統計によると、2015年の産油量は日量2.7万バレルに留まっており、中東地区に位置しながらも原油生産は殆ど行われていない。世界シェアはほぼゼロである。かつては日量50万バレル前後の産油量を誇っていたが、軍事衝突や政治経済環境の混乱を受けて、13年以降は10万バレルを下回る産油状況が続いている。一応は原油輸出も行われているが、それは原油供給が余剰というよりも国内精製能力不足によるものであり、実質的にはもはや輸入国となっている。

石油や天然ガスのパイプラインもイラク国境付近などに多数敷設されているが、今回のミサイル攻撃による原油供給に対する直接的なダメージは限定的とみて良いだろう。

問題は、シリアの位置する場所である。シリアは東をイラク、南をヨルダン、北をトルコに接しており、西南方向にはイスラエルも存在している。シリアのアサド政権に対しては、イランやロシアが後ろ盾になっており、今回の米国の軍事介入によって中東地区の地政学的環境がより広範囲にわたって混乱状況に陥る可能性もあるのだ。実際に、2011年にシリアで騒乱が始まると、当時80ドル台後半水準を推移していた原油相場は、一時115ドル近辺まで急伸している。

しかも今回は、米中首脳会談開催、更には北朝鮮情勢が緊迫化している最中の軍事行動とあって、中東地区の地政学的リスクの高まりに留まらないインパクトが生じる可能性もある。この種の地政学的リスクは、供給「リスク」のみで断続的に相場を押し上げることは難しい。いわゆる「噂で買って、事実で売る」との相場格言通りの結果になることも少なくはない。

ただ、現在は石油輸出国機構(OPEC)などの協調減産で国際原油需給が過剰在庫状態から脱することが可能か否かとの瀬戸際状態にあるだけに、この種の供給リスクが必要以上にクローズアップされやすくなっている。