株と金が同時に買われる異常事態

(写真:アフロ)

安全資産の代表格である金価格が上昇している。国際指標となるNY金先物相場は、昨年12月15日の1オンス=1,124.30ドルをボトムに、足元では1,240ドル台まで上昇している。これは昨年11月11日以来の高値である。

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背景にあるのは、大西洋を挟んだ米国と欧州(特にフランス)とで同時に政治リスクが高まっていることだ。トランプ米大統領については、マーケットでの前評判こそ悪かったものの、当選が決まった後はインフラ投資、規制緩和、大型減税といったマーケット・フレンドリーな政策への期待を反映する形で、株価急騰を促す一方で金価格に対しては急落地合を強いていた。

特にインフラ投資の形で財政出動が強化されれば、少なくとも米経済は短期的には強く刺激されることになり、景気過熱とインフレ高進シナリオに対応するために、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペースが加速することに対して金市場の警戒感は強まった。FRBは2015年、16年にそれぞれ年1回のペースでしか利上げサイクルを消化できなかったが、17年にそのペースが加速するのであれば、金利上昇圧力が本格化することになり、金よりもドル保有のメリットが高まるとの評価が広がっていた。

しかし実際にトランプ大統領が正式に誕生してみると、Twitter上で突然に政策が発表されて混乱が引き起こされると同時に、マーケットが期待していた経済政策よりも移民・難民政策や国際通商、対イランや中国外交など、逆に不安視していた分野ばかりで政策が積極展開されており、トランプ大統領への「期待」が「警戒」へと一変してしまっている。

タイミングの悪いことに、フランスでは4月の大統領選に向けて選挙キャンペーンが本格化しているが、有力候補に相次いでスキャンダルが報じられる中、極右政党を率いるルペン氏勝利のリスクが指摘されている。ルペン氏は、自身が勝利した場合には欧州連合(EU)離脱を進めると表明するなど、「フランスのトランプ」とも言われる(マーケット目線では)過激な政策を打ち出している。

世論調査では、ルペン氏の支持率は25%前後と、過半数は得ていないが候補者別の支持率では首位になっている。決戦投票になれば勝てないとの見方が強いが、米大統領選で世論調査のクリントン大統領誕生の予想は完全に外れたこともあり、フランス大統領選でも同じパターンが実現するのではないかとの警戒感が強い。

■株を買いつつ、保険で金も買う

これだけでをみれば分かりやすい値動きだが、問題は金価格急伸の一方で米国株が改めて過去最高値を更新するなど、本格的なリスクオフ環境が発生している訳ではないことだ。通常だと、金価格が急騰するような不安定な投資環境では、株価は急落しているはずである。しかし米国株は逆に高値更新サイクルを維持しており、株価と金価格が同時に上昇する珍しい現象が発生している。

これは、投資家がリスク投資への継続にメリットを感じている一方、万が一の「テール・リスク」への準備を急いでいる可能性が高いことを意味する。すなわち、リスク資産を売却するほどの危機感はないものの、米欧の政治環境起点で何か不測のトラブルが発生するのではないかとの危機感が、安全資産である金市場に資金の一部をシフトする動きにつながっている訳だ。現段階ではあくまでもリスク投資の「保険」として金が購入されているに過ぎないが、仮に米欧の政治リスクが株価急落を促すような事態になると、資金の一部を金で保有しているメリットが生きてくることになる。

株価と金価格が同時に上昇していることは、リスク資産への投資を拡大しつつ、安全資産の保有も拡大しておきたいという、投資家が先を読みきれない不安定な投資環境に追い込まれていることを強く示唆している。

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