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シェールオイル増産を警戒する原油市場

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

原油価格の高止まりが続いている。1月22日に開催された石油輸出国機構(OPEC)加盟国・非加盟国の減産監視委員会(JMMC)では協調減産合意が高いレベルで遵守されていることに対して「満足している」との声明が出されたが、それでもNYMEX原油先物価格ベースで1バレル=50~55ドルをコアとしたレンジから抜け出せない状況が続いている。

一つには、実際にOPEC加盟国・非加盟国がどの程度の減産を実施しているのか、具体的な数値が分からないことがある。JMMCではあくまでも「満足」が示されただけであり、約173万バレルの協調減産合意に対して具体的に何万バレルの減産が行われているのか数値は提示されていない。一応は、サウジアラビアからロシアのエネルギー相から日量150万バレルといった数値も出てきているが、減産実施の確証を得たいとの慎重姿勢がある模様だ。

もう一つが、米国のシェールオイル増産に対する警戒感である。協調減産合意を受けて、昨年2月には26.05ドルまで急落していた原油価格は、今やその二倍の水準に達し、2015年7月以来の高値を更新している。このまま油価上昇と連動してシェールオイルの増産が本格化すれば、協調減産の効果が相殺されて供給過剰状態の解消が実現しないのではないかとの疑惑が存在する訳だ。

米国のシェールオイル生産に関しては、2014年後半以降の油価急落で大きなダメージを受けたことは間違いない。中東などの伝統的産油国と比較してシェールオイルは生産コストが高く、採算ライン割れの状態が一時的ではないとの評価が広がる動きと連動して、新規開発の停止のみならず、既存生産も休止ないしは停止する動きが広がった。

米エネルギー情報局(EIA)のデータによると、ピークとなった2014年12月には日量547万バレルの産油量を誇り、前年同月比では114万バレルの増産が実施されていた。しかし、今年1月の推計値では471万バレルとなっており、約2年間で約76万バレルの減産状態になっている。

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しかし、その一方で石油掘削装置であるリグの全米稼働数(米ベーカー・ヒューズ社調べ)は、昨年5月16日の316基をボトムに、直近の1月27日時点では566基まで250基(79%)もの急増になっているのだ。産油量は、リグ稼働数だけで決まるものではないため、これで直ちに増産が始まることは意味しない。ただ、少なくともシェールオイル開発業者の活動が活発化していることは間違いなく、こうしたリグ稼働数の増加が続けばいずれかの時点でシェールオイルの産油量そのものも上振れする可能性が高まる。

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そしてEIAは、2月のシェールオイル生産が前月比で4万バレルの増産になるとの見通しを示している。油価の急落が始まった後にも前月比で増産となったことは何度か存在するが、昨年10~12月期以降は明らかに前月比での減産幅が縮小しており、トレンドとして増産基調に回帰する可能性が高くなっている。

同じくEIAの通年での推計では、2017年は既存油井なども含めた全米の産油量で昨年の日量889万バレルに対して900万バレルとなっており、11万バレルの増産見通しに留まっている。メキシコ湾などでも増産圧力が強くなっていることを考慮すれば、シェールオイル生産に関してはほぼ横ばい予想とも言える。しかし、油価が上昇すれば当然にこの数値は上方修正を迫られることになり、その増産開始の危険ラインに到達し始めたとの見方が、原油価格の新たな上値圧迫要因として機能している。

現実問題としては、石油メジャー各社はなおシェールオイル開発に慎重姿勢を崩しておらず、かつてのように前年比で日量100万バレルを大きく超えるような増産が実現する可能性は殆ど存在しない。古くから開発が行われていたシェール層では、生産能力そのもののピークアウトも指摘され始めており、「油価上昇→シェール開発の加速→増産」フローは緩やかなものに留まる可能性が高い。このために協調減産効果を相殺するような状況が実現する可能性は低いと考えているが、シェールオイル産業の実力は未知数な部分も多く、油価上昇にシェールオイル生産環境がどのような反応を示すのかを確信しながらでなければ、原油価格の上昇は難しい状況になっている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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