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中国の通貨不安とビットコインの乱高下

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

年初から仮想通貨ビットコイン相場が激しい値動きを見せている。2016年の夏場には1ビットコイン=5万~8万円水準での取引になっていたが、昨年末には11万1,000円水準まで急伸し、今年1月4日の取引では過去最高となる13万3,856円を付けていた。しかし、5日以降は突然に急落地合に転じ、足元では8万円台中盤まで急速に値位置を切り下げる展開になっている。僅か1週間で35%を超える下落率が記録されており、急騰と急落が繰り返されるまだ新しい市場特有の不安定な値動きになっている。

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ビットコインは、円やドルといった中央銀行の支配に属する法定通貨とは違い、ブロックチェーン技術によって裏付けされた無国籍の「通貨」であり、一般的には資本・通貨規制が強化されると法定通貨から逃げ出した資金の受け皿として機能することになる。特に、中国では資本・通貨管理が強力なこともあって仮想通貨に対するニーズは強く、人民元建てビットコインの取引量は世界全体の7~8割を占めるに至り、「ビットコイン相場は中国で決まる」とも言われている。

その中国では資本流出と通貨安に対抗するために、昨年後半に通貨当局や中央銀行が相次いで資本規制乗り出している。外貨準備を1兆ドルも削減する大規模な為替介入を行っているにもかかわらず人民元安に歯止めが掛からない中、国内企業や個人による海外投資制限、外貨購入制限など、外貨買い・人民元売りの動きに対する規制レベルが毎月のように引き上げられている。こうした中、数少ない人民元売りの受け皿として機能した「資産」の一つがビットコインであり、中国の資本・通貨規制強化の動きがそのままビットコイン相場の高騰を促してきていた。

しかし、「人民元売り・ビットコイン買い→ビットコイン売り・外貨買い」の形で、ビットコインが外貨購入の抜け穴になっている可能性が指摘される中、中国当局はビットコインに対する規制も強化に乗り出している。1月11日には、ビットコイン取引会社3社に対する「調査を開始した」と公表し、人民元売り・ビットコイン購入を強くけん制していることが、ビットコイン相場の急落に拍車を掛けている。

■法定通貨と安全通貨

通貨の世界では、国際基軸通貨ドルに対する信認が揺らぐと、安全通貨・代替通貨である金(Gold)が購入される関係が続いてきた。中国でも、インフレや通貨安で人民元の購買力に不透明感が強まると、金が購入される傾向が強かった。日本でも、アベノミクスのスタート当初は円安に備えて金貨や金塊を購入する動きが活発化していたことは記憶に新しい。

しかし、中国では金に関しても銀行に対する輸入割当の削減といった形で、「金買い=人民元売り」の動きに歯止めが掛けられる中、ビットコインが金の代替品とも言える役割を果たし始めていた。しかし、そのビットコイン取引に対しても当局が対策に乗り出す中、人民元を手放すための受け皿が徐々に無くなり始めている。

こうした中、中国では鉄鉱石や石炭、天然ゴムといった資源価格が急騰している。中国系投機筋が、人民元の購買力喪失に対抗するために、実物資産の購入に動いている可能性が指摘されている。例えば、天然ゴムの場合だと、昨年中盤には1kg=150円水準で取引されていたのが、1月11日の取引では300円の大台に乗せている。

トランプ次期米大統領の就任式が1月20日に迫る中、中国は為替操作国との批判に敏感になっているが、強引とも言える資本・通貨規制の動きがビットコインやコモディティ価格の乱高下を促している。ビットコイン価格の荒れた値動きは、中国政府が直面している危機の大きさを表すものと言えそうだ。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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