トランプ大統領への恐怖を反映する金価格上昇

(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選挙を巡る混乱状況を受けて、安全資産の代表格である金(gold)価格が上昇し始めた。ヒラリー氏の私用メール問題で米連邦捜査局(FBI)が捜査再開を決定したことを受けて、投票日まで残り1週間を切っているにもかかわらず、各種世論調査でクリントン候補とトランプ候補が再び接戦を演じていることが確認された影響である。これまでは、クリントン大統領の誕生でオバマ政権の現行政策は概ね踏襲されるとの漠然とした安心感があったが、トランプ大統領誕生の可能性も否定できないとの警戒感が、金市場に対する退避需要を創出している。

今年後半に入ってからの金価格は、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利上げ観測を背景に、上値の重い展開が続いていた。昨年12月以来となる約1年ぶりの利上げイベントが、ドルに対する信認回復の動きに直結し、金市場からドルに対する資金回帰が促された結果である。

COMEX金先物相場は、7月6日の1オンス1,377.50ドルをピークに値下がり傾向にあったが、10月上旬には1,300ドルの節目も完全に割り込み、10月7日には1,243.20ドルまで最大で134.30ドル(9.7%)の下げ幅が記録されていた。しかし、10月28日にクリントン氏に対する捜査再開方針が示されると1,280ドル台まで反発し、世論調査で両候補の接戦状態が確認された11月1日の取引では更に1,290ドル水準まで値上がりしている。

【COMEX金先物相場】

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(出所)CME

グローバルマーケット全体に目を向けると、米政治・経済リスクの高まりから株式、ドルが売られる一方、金と同じく安全資産とされる米国債やスイスフラン、円などが買われている。また、トランプ氏が対メキシコ政策で厳しいスタンスを示していることで、メキシコ通貨ペソなどに対しても売り圧力が強くなっており、1ドル=18ペソ台後半から19ペソ台前半までペソ売りが進行している。

今年6月には、イギリスの欧州連合(EU)離脱を巡る国民投票において、世論調査における賛否が拮抗したことが、ポンド相場の急落を招いた。一方、今度は米国の大統領選挙の世論調査が、アメリカ大統領選挙を巡る不確実性を高め、リスク資産売り・安全資産買いの動きを促し始めている。これで今年は、世論調査が二度にわたって、マーケットに混乱をもたらした格好になる。

「世論」と「マーケット」が好ましいと考えることが必ずしも一致する必要はないが、両者に大きかい離が生じていることは、投資環境の不安定化をもたらし易い。米国民の世論がトランプ支持に傾き始める中、安全資産である金価格上昇は、世論とは異なる投資家の警戒感を反映したものと言える。