通貨安のイギリス国民が選択したこと

(提供:アフロ)

イギリスで金(ゴールド)が売れている(=買われている)。イギリス王立造幣局(The Royal Mint)によると、10月に入ってからの金貨の販売高は、9月から倍増しており、イギリスの欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)に対する危機感が著しく高まった6月との比較でも50%の増加になったと報告されている。

背景にあるのは、もちろんブレグジットである。10月入りしてから再びイギリス通貨ポンド相場が下落傾向を強めているが、イギリス国民のポンド保有による購買力喪失に対する危機感を高め、その受け皿が金貨になっている可能性が高い。

イギリスは6月23日に実施された国民投票において、EUからの離脱を決定した。しかし、各種世論調査などからマーケットは6月上旬段階でその織り込みを開始していたため、実際に離脱が決まった後は特に目立った動きは見られなかった。世界の金融市場の動揺もひとまずは回避されており、この問題はマーケットの関心を失いつつあった。しかし、10月入りしてからは対ドルでポンド相場は5.7%の下落率を記録しており、改めてポンド売り圧力が強くなっていることが、イギリス国内で代替通貨・安全通貨としての金に対する関心を高めている可能性が高い。

ポンド相場の急落は、イギリス国民が外国通貨建ての財・サービスを購入するコストを高めることになる。これは必然的にイギリス国内のインフレ圧力を強めることになり、ポンドで資産を保有している限りは、その購買力は時間の経過とともに失われるリスクが高まることになる。

こうした通貨安による購買力低下の危機感に晒されたイギリス国民の選択肢の一つが、金貨になっている訳だ。通貨安が進んでいる国では、当該通貨建ての金価格に対しては上昇圧力が働くことになる。単純にドル建てで売買されている金の輸入コストが上昇することに加えて、自国通貨を売って金を購入しようとする投資行動も活発化するためだ。このため、金貨を保有していると通貨安による購買力の喪失を(少なくとも通貨保有時よりは)回避することが可能なため、必ずしも積極的な値上がりが見込めなくても、金市場に対して資金流入が発生し易くなる。単純化すると、ポンドから金貨への交換ニーズが高まるわけだ。

こうした状況は、ポンド建ての金価格動向をみてみると良く分かる。6月1日時点と直近の金価格を比較してみると、ドル建ては4.1%の上昇、円建ては1.1%の下落となっているのに対して、ポンド建て金は22.6%の上昇となっているのだ。こうしたブレグジット前後の金価格動向をみてみると、通貨安が本格化した際には、金保有が有効な資産防衛ツールであることが明確に確認できる。

裏返せば、金価格が低迷している国は、自国通貨での購買力が担保された状況にあると言え、日本の場合は皮肉にも日本銀行の金融緩和策が円安、インフレ期待の形成に失敗していることが、金に対する投資ニーズを抑制した状況を作り出しており、通貨円保有のメリットを高めた状態にある。

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