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株安・円高リスクとしての稲田新防衛相

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

小池百合子・東京都新都知事が誕生したのに続き、第三次安倍内閣が発足するなど、日本の政治風景は大きく変わり始めている。激しい都知事選を戦った小池新知事と自民党東京都連との関係性は依然としてしこりを残した格好になっているが、8月4日午前には安倍首相と小池新都知事の初会談で「和解」が演出される中、国と首都東京都の分裂といった最悪の展開は回避できそうな状況になっている。

マーケットの視点でも、政治的な安定性は歓迎すべき動きと言え、日本株投資におけるリスクの一つが解消に向かっていることは素直に歓迎できる。特に海外投資家は政治環境の不安定化を嫌う傾向にあるが、国と都が東京五輪に向けて共同歩調を確認していることは、長期安定化が進む安倍政権に疑問を投げ掛けるものではなく、少なくとも都知事選をきっかけに日本株の投資リスクが意識されることは回避されている。

一方、第三次安倍内閣では稲田朋美氏が防衛相に就任したことが、マーケットの視点では注目される。稲田新防衛相に対しては、中韓や国内左派メディアを中心に「右翼」や「極右」といった評価があり、こうした評価に海外投資家が不安を抱くと、日本株投資の政治リスクとして認識される可能性があるためだ。

稲田新防衛相の政治評価については保留するとしても、日本の政治や歴史に知見を有していない海外投資家の目に触れるのは、メディアを通じた報道だけである。つまり、稲田氏の政治スタンスの是非ではなく、メディアがどのように報じるのかだけが、判断材料とされてしまう。

しかし、日本の情報を伝えるメディア報道は安易な「稲田=右翼」論に乗っかる傾向が強く、現に市場関係者の注目度が高い英紙フィナンシャル・タイムズは早速、「日本の歴史にタカ派(hawkish)」、「戦犯者も含む戦死者を祭る靖国神社参拝の常連」、「東京裁判に疑問を投げ掛けている」といった批判的なトーンで紹介している。

米国務省のトナー副報道官も「歴史問題には癒やしと和解を促進するアプローチが重要」と、「(靖国)神社に関しての米国の立場」を確認し、事実上の靖国参拝のけん制を行っている。この文脈の中で稲田新防衛相が靖国神社参拝を行うと、その政治的・歴史的な是非とは関係なく、海外投資家の資金引き揚げというリスクが浮上してくることになる。

現にこの問題には前例があり、2013年12月に安倍首相が首相就任後に初めて靖国神社を参拝すると、中国や韓国が強く反発し、更には米国まで「失望」を表明するなど波紋を広げ、年明け後の日経平均株価は年初の1万6,269円から4月の1万3,885円まで急落した経験がある。

僅か2,000円強の値下りとも言えるが、その当時はドル/円相場も1ドル=105円台前半から100円台後半まで大きく円高・ドル安に振れており、金融市場にとって日本の政治家の「タカ派」や「右翼」問題は神経質な対応を迫られるものである。外国人に受けが良い日本の右傾化論が新たな広がりをみせるのかは、政治的のみならず経済的にも極めて大きな意味を持つことになる。

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(画像出所:Financial Times)

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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