追い詰められた麻生財務相、円売り介入カードは切れるのか?

(写真:ロイター/アフロ)

ドル/円相場は、5月3日の1ドル=105.55円をボトムに、108円台前半まで反発する展開になっている。これまでハト派(緩和的、追加利上げに消極的)と評価される発言が目立ったニューヨーク連銀ダドリー総裁が、5月6日発表の4月米雇用統計が低調な内容にもかかわらず年内2回の利上げ見通しが「合理的」と発言したことで、必ずしも6月に米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げに踏み切る可能性も排除できないとの見方が、ドルの反発(円の反落)を招いている結果である。それと同時に、5月9日、10日と麻生財務相が急激な円高阻止に向けて円売り介入を含む政策対応の可能性を示唆していることが、投機筋の円買い(ドル売り)ポジションに手仕舞い売りを誘っている。

麻生財務相は、最近の為替動向について「一方的に偏しており、さらにこの方向に進むのは断固として止めなければらない」と、「一方的に偏った状況が続くのであれば為替介入の用意もある」として、円売り・ドル買い介入によって最近の円高・ドル安傾向にブレーキを掛ける可能性もあることを示唆している。

ここで思い返したいことが、4月29日に米財務省が公表した「為替報告書」である。そこでは、日本を含む5か国が「監視リスト」として指定されており、米財務省は経済トレンドと外国為替政策を注意深く監視すると、これらの国々の通貨安政策に対して実質的な警告を発している。

米議会は、1)対米貿易黒字が200億ドル以上、2)経常黒字が国内総生産(GDP)の3%以上、3)為替介入の規模がGDPの2%以上を「為替操作国」の認定基準として掲げており、この三つの基準を満たした国に対しては対抗措置を講じることを求めている。日本に関しては、かろうじて為替介入基準を満たしていないことで「監視リスト」への指定に留まったが、仮にここで円売り介入に踏み切ると「為替操作国」の認定が行われ、米政府が対抗措置を講じる可能性がある。野球で言えば、既にツーアウトが宣告されており、円売り介入はスリーアウト・チェンジになる可能性が高い政策になっているのだ。

それにもかかわらず麻生財務相が円売り介入カードをちらつかせていることが、日本政府が円売り介入の実施に本気ではないかとの警戒感を広めている。当然に米財務省・為替報告書の内容は日本政府も熟知しており、同報告書で「全てのG20、G7参加国・地域は、為替政策を巡るコミットメントを順守する必要がある」との指摘を念頭に、「急激な為替変動が経済に良い景況を与えないことはG7、G20で合意している」と、仮に円売り介入に踏み切ったとしても国際合意の下での政策対応とのけん制を行っている。また、「米為替報告書で日本の為替政策は制約されない」として、米財務省の「監視リスト」指定にも強い不満を示している。ただ、米財務省は最近の急激な円安・ドル高にもかかわらず、「ドル/円相場は秩序立っている」との評価を示し、「偏った動き」との日本の財務省とは明らかに異なる評価を行っている。

更に遡れば、4月16日のG20財務相・中央銀行総裁会議では、麻生財務相が「最近の為替市場にみられる一方的で偏った動きに強い懸念を有している」と円売り介入の地ならしを行う一方で、ルー米財務長官は「最近円高が進んでいるが、市場は無秩序な状態ではない」として、事実上の円売り介入を容認しない姿勢を明確に示している。

仮にここで日本政府が円売り介入に踏み切れば、米財務省や議会の強力な反発を招くのは必至である。次回10月に公表される為替報告書では、「為替操作国」の認定が行われる可能性が高まる。一方で、ここまで強く円売り介入の可能性を示唆しながらも何も行動を起こさない(起こせない)状況が続くと、改めて投機的な円買い・ドル売りを仕掛ける動きが強まる可能性が高い。結局は、最近の円高・ドル安は「円高」というよりも「ドル安」の意味合いが強いだけに(参考:なぜ円安は限界を迎え、円高に転じたのか)、日本の財務省・中央銀行などが講じることが可能な円高阻止カードは多くない。

麻生財務相は米国の円高・ドル安容認姿勢に強い不満を抱いていることを隠そうとしていないが、その米国も従来のような急激なドル高を受け入れるだけの経済エネルギーを有していない以上、円安政策の理解を得ることは難しくなっている。この状況を打破できるほどに米経済が力強さを回復するまでは、円安・ドル高が本格化する余地は限定されることになる。