原油価格は再び上昇するのか

(写真:ロイター/アフロ)

原油価格(参考:原油価格をみるための基礎知識)の急落が続いている。2011~14年前半までは1バレル=100ドルという高値圏での安定相場が続いていたNY原油価格であるが、14年後半に突如急落が始まり、15年1月には50ドルの節目も下抜き、今年1月には03年9月以来の安値となる20ドル台後半にまで下がっている。08年の147.27ドルをピークとした原油高の時代に終止符が打たれ、本格的な原油安時代が到来している。

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■原油価格が値下がりしている背景

背景にあるのは、「中国を筆頭とした新興国経済の成長鈍化」「過去の高価格に刺激を受けた供給増加」という、需要と供給の双方から働いた供給過剰圧力(在庫積み増し圧力)である。

07年4~6月期には年率+14.9%もの成長を遂げた中国経済は、足元では6%台後半までの成長鈍化局面に移行しており、貿易相手国も含めて原油を含めた資源需要が鈍化してしまうことは避けられない状況になっている(図2)。一方、過去の高い原油相場は、シェールオイル、オイルサンド、深海油田など、従来では技術的にも採算的にも採掘が難しかったタイトオイル(非在来型原油)と言われる新たな原油供給を市場に呼び込んだ。この二つのタイミング重なったことが、原油安を決定づけた。

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それでも原油価格は、14年前半まで100ドル前後の高価格を維持できていた。金属や農産物価格は先行して急落していたが、原油に関しては石油輸出国機構(OPEC)が需給バランスの調整役を担っていたことが、高止まりする状況を作り出していた。本来は、価格の低下で需要拡大と供給抑制が促される所を、OPECが機動的に産油量を調整することで、需要の拡大が鈍化したにもかかわらず、原油価格の高値誘導に成功してきたのである。

しかし、新興国の成長鈍化に歯止めが掛からない一方、シェールオイルが増産ペースを加速させる中、14年中盤から後半にかけてこうしたOPEC主導の需給調整は破綻した。他の資源価格同様に、過剰供給を解消するように、価格が低下している。金属など他の資源価格が11年から5年もの時間をかけて進めてきた価格低下で需要と供給をバランスさせる動き(需給リバランス)に、わずか1年半で追い付こうとしていることが、原油価格の下げを加速させている(図3)。

今年1月にはイラン核協議の進展で欧米諸国が対イラン経済制裁の解除に踏み切ったことを受けて、早ければ2月にもイラン産原油の供給が急増するとみられている。サウジとイランの断交などの地政学的要因もあってOPECの結束が緩む中、原油価格は秩序なき混沌の時代を迎えている。

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■原油価格は10ドルまで下がるとの声も

原油価格は最終的にどこまで値下りするのか。マーケット関係者の間では20ドルや10ドルといった声も聞かれる状況になっている。

ゴールドマン・サックスが昨年、原油価格が20ドルを下回る可能性があると予想した際には、そのシナリオが実現する可能性は必ずしも高いとは考えられていなかった。ゴールドマン自身も、20ドルまでの下落は一番可能性の高い基本シナリオではないとしていた。しかし、今年に入ってからモルガン・スタンレーが20~25ドル、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが20ドル台半ばまで下落する可能性を指摘するなど、20ドル台前半から中盤までの値下りを予測する金融機関が一気に増えている。スタンダード・チャータード銀行は、10ドルまで下落する可能性もあると指摘している。

将来の売買の権利を取引するオプション市場でも、25ドルで売却する権利が得られるプットオプションを購入(=市場価格が25ドルより下がると利益を出せる)するなど、原油価格の更なる値下りに対する防御行動が本格化している。カナダ産重質油などは15ドル水準まで下落しており、ドルや人民元相場、シェールオイルの生産動向、株式などを含む投資全般を巡る雰囲気や状況などによっては、10ドル前後まで値下りする可能性も想定しておく必要がありそうだ。

■原油価格は再び上昇するのか

では、原油価格はこのまま低迷が続き、再び上昇することはできないのだろうか。10ドルや20ドル台の原油価格が普通の状態になり、50ドルや100ドルといった原油価格の時代が再び到来することはないのだろうか。

この問題にはいくつかのアプローチ方法があるが、最も単純なのは先物カーブを利用した予測である。先物カーブとは、原油市場のプロが集まる原油先物市場で投資家や石油会社、石油ユーザーなどが、将来の原油価格をどのように予測しているのかをグラフ化したものであり、現段階での原油市場関係者の標準的な価格予想と言えるためだ。

NYMEX原油先物価格(1月21日時点)をみてみると、16年3月渡しが29.53ドルとなっているのに対して、6月渡し32.86ドル、12月渡し35.96ドルと、年末に向けて30ドル台中盤までの反発が見込まれた状態になっている。その先は年末時点で17年39.20ドル、18年41.73ドル、19年43.57ドル、20年44.77ドルとなっており、20年代中盤に至っても50ドル台回復は難しいとみている向きが多いことが確認できる(図4)。価格の方向性としては上昇するも、そのペースは極めて緩やかなものに留まることが予測されている。

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一方、過去に起きた原油価格急落後の状況も参考になる。直近では08年のリーマン・ショック時、その前だと1991年の湾岸戦争後にも急落相場を経験している。ただ、構造的な過剰供給に起因する原油安としては、1985~86年にかけての急落相場との類似性を指摘する向きが多い(図5に当時と現在の比較)。

当時はメキシコ湾の海底油田からの原油生産が本格化し、これが現在でいうタイトオイル(従来なかった新しい種類の原油)としての役割を果たし、供給過剰が原油価格の急落を招いた。85年後半には20ドル台後半で取引されていたのが、86年中盤には10ドル割れまで、おおむね1年間で原油価格は三分の一の価格まで急落している。

その後の原油価格を振り返ると、1990年代を通じて相場の底は打ったものの15~25ドル水準で行き来する展開が続き、本格的な原油高となったのは2000年代に入ってからである。現在のタイトオイルの代表格であるシェールオイルに関しては、伝統的な油井と比較して迅速に供給の拡大も縮小もできるため、需給リバランスの動きはより短時間で済むとの見方が強い。需給バランスが取り戻されるまでに、数十年が必要とみる向きは少ない。ただ、裏返せば原油価格が早期に回復すればシェールオイルも早期に増産されることになる。今後も拡大を続ける需要に供給が追い付かなくなるような状況には、数年単位の時間が必要になるだろう(※)。

(※)仮に短期間で原油価格の急騰があるとすれば、1)OPECやロシアなどの供給管理、2)シェールオイルの生産力がマーケットの想定を下回っている場合、3)ドル相場の急落、4)地政学的要因による供給減少などが考えられる。

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