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トルコ・リラ相場が5%超の急伸、日本の為替投資家に恩恵

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

11月2日の外国為替市場では、トルコ・リラが急伸している。1日に投開票されたトルコ国会のやり直し総選挙で、与党・公正発展党(AKP)が過半数を奪還したことで、6月から続いていた政治的な膠着状態が打開されるとの楽観的な見方が広がっている結果である。

先週末の1ドル=2.9150リラに対して、本日は一時2.7579リラまで、対ドルでリラ相場は最大で5.4%もの上昇率を記録している。対円市場でも、先週末の1リラ=41.3531円に対して、本日は43.6285円まで最大5.5%の上昇率が達成されている。

1日に5%を超える値動きは、ドルやユーロ、円といったハードカレンシーでは考えづらいものである。ドル/円相場で言えば、1日で1ドル=6円もの急激な円安・円高となるような値動きである。ただ、リラ相場は7月以降に政治的な不透明感に加えて、テロ頻発、政府とクルド人系武装勢力との戦闘、更には米国の利上げ観測を背景としたドル買い・新興国通貨売りのマクロ環境も手伝って急落していただけに、選挙結果を受けて一斉に買い戻しが膨らんだ模様だ。

事前のマーケットでは、総選挙で与党の単独過半数は楽観視できず、6月の前回選挙でAKPが過半数割れして連立協議が不調に終わったように、政治的な混乱の長期化を予測している向きも多かった。このため、その反動がリラ相場の急騰を招いた可能性が高い。

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■リラを買っていた日本の個人投資家

このリラ相場であるが、近年は日本の外国為替証拠金取引(FX取引)でも取り扱う業者が増えており、東京金融取引所でも「くりっく365」として上場されている。同取引所における10月の売買高では、米ドル/円の107万0,930枚(注:枚は取引単位)、豪ドル/円の38万4,039枚に次いで、トルコ・リラ/円は30万3,237枚と3番目の取引規模を誇っている。南アフリカ・ランドの29万0,796枚やユーロ/円の16万6,144枚を上回る人気通貨になっている。

日本の投資家がこのトルコ・リラをどのように売買しているかをみてみると、直近の10月20日時点では買いが18万1,879枚に対して、売りは2万5,179枚となっており、大幅な買い越し状態にあった。もちろん、その後の1週間で若干のポジション変動はあるだろうが、今回のリラ相場の急騰は日本の投資家全体にとっては大きな利益をもたらした可能性が高い。

なぜこれまで急落していた、しかも必ずしも認知度が高くないリラ相場を日本の(主に個人)投資家が買っていたのかとなるが、それは政策金利の高さに尽きる。現在、トルコの政策金利は7.50%に達しており、世界的に低金利が進む中で高レベルの金利(スワップポイント)が得られる通貨として、日本の投資家はトルコ・リラを買い続けていたのだ。上述のように、「くりっく365」ではトルコ・リラの他に南アフリカ・ランドも日本の投資家には人気が高い通貨になっているが、これも同国で産出される資源価格の急落という経済環境の悪化よりも、6.00%という単純に高い政策金利が人気を集めた結果である。

地政学的リスクと経済リスクのいずれの視点からもトルコ・リラの先行きが明るいとは言い難く、実際に本日のトルコ・リラは急伸したものの、なお、8月中旬より前から買っていた投資家の多くは損失を抱えた状態にある。トルコの失業率は9.8%と高止まりしており、急激なリラ相場の下落でも経常収支・貿易収支は赤字である。加えて、シリア情勢を巡るロシアとの対立、シリアからの難民の取り扱い、イラクとトルコからの独立を志向するクルド人組織なども、今回の選挙結果で簡単に変るものではない。

やり直し総選挙を受けてのトルコ・リラ急落は回避されたものの、日本の投資家にとっては束の間の安心で終わる可能性も高そうだ。世界の政治・経済のあらゆる問題が、トルコに集約されている状況を打破でき、トルコ・リラ相場の下落傾向に歯止めを掛けることができるのか、今後は単独過半数を回復したAKPの手腕が試される状況になっている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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