Yahoo!ニュース

中国人民元、IMFのSDR採用で合意できず

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

中国通貨・人民元の国際化を目指す中国政府にとって、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨に人民元が採用されるのは今年の主要政策目標の一つになっていた。金本位制の採用を取りやめた現在において、SDRは実利的な意味を殆ど有しておらず、象徴的な存在と化している。あくまでもIMFと各国中央銀行との間でのみ使用される準備資産であり、民間の投資家などにとっては直接的には保有することも売買することもできない資産になっている。

しかし、米ドル、ユーロ、円、ポンドに並ぶ主要通貨としてSDRの構成通貨に人民元も採用されることになれば、国際金融の世界では「人民元の国際化」を象徴する出来事になり得るものであり、中国政府は威信をかけて人民元のSDR採用を働き掛けてきた。

このSDR構成通貨は5年単位で見直しが行われており、2010年の見直し時には人民元の「自由に利用可能な通貨(freely usable currency)」に対する疑問から、採用が見送られていた。中国政府はその後の5年間で着実に人民元の自由化を推し進めてSDR採用は確実視されるようになっていたが、IMFのシダート・ティワリ戦略政策審査局長は8月4日、その議論のたたき台となるレポートの中で、結論を期限とされていた今年末から2016年9月30日まで9ヶ月先送りすることを検討していることを明らかにした。

ティワリ局長によると、国際取引の決済における人民元の利用は拡大しており、「広範な指標にわたって、国際的にかなりの程度利用されている」ことが確認されている。この傾向はアジアにおいて著しいが、欧州でも利用度合の増加が報告されている。

ただ、SDR構成通貨の条件は、国際取引の決済で「広く利用」、外国為替で「広く取引」されているという量的なものに加え、「自由に利用可能」という質的な条件もある。ティワリ事務局長は、量的な基準では人民元は新たにSDRに採用され得る唯一の通貨であることを認めているが、なお自由通貨の面で既に採用済みの通貨との間に開きが指摘されており、最終結論を下す議論には時間が必要としている。

これは、人民元のSDR採用見送りを意味しないが、来年の9月までに中国政府としてはより一層の人民元の柔軟性や金融改革を要求される可能性が高くなっている。

中国政府は、自らの主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の融資・決済で人民元の使用をバックアップすると同時に、7月17日には中国人民銀行(中央銀行)の保有する金準備資産の残高を従来の3,389万オンス(1,054.098トン)から5,332万オンス(1,658.439トン)まで大幅に引き上げるなど、人民元の国際化を実現するための準備を着実に進めてきていた。

実際に、フランスなどは歓迎の以降を示しており、3月に訪中したラガルドIMF専務理事も前向きと受け止められる発言を行っていた。しかし、この問題に関して事実上の拒否権を有する米国では、ドルの国際基軸通貨体制に対する挑戦と警戒の声も強く、人民元の改革状況を更に見極めるステージが続くことになる。

人民元相場の柔軟性拡大に加えて、中国金融市場に対するアクセス制限の緩和、取引の自由化推進などが要求されるが、株価急落で金融市場に異例な介入を続ける中国政府は、一段と厳しい局面に立たされることになるだろう。また、人民銀行の公表した金準備資産の保有データは市場予測を大幅に下回っていたが、データ更新の第二弾が行われるかにも注目したい。少なく見積もっても500トン前後の金準備が非公表とされている可能性あり、既に急落している金価格へのインパクトも想定しておく必要がある。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

小菅努の最近の記事