Yahoo!ニュース

暴落中の原油相場に投資チャンスあり?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

NYMEX原油先物相場は、昨年6月13日の1バレル=107.68ドルをピークに、現在は45ドル水準まで値下がりし、2009年3月以来の安値を更新している。僅か7ヶ月の間にその下落率は60%に迫る勢いであり、余りに急激な原油価格水準の変化が、国際政治・経済・金融市場のかく乱要因になっている。

その背景にあるのは、世界的な需要鈍化やシェールオイルの大規模増産などを背景に、国際原油需給が緩和状態に陥っていることだ。その意味で、原油安そのものは需給理論的にも正当化できるものになっている。だが、それにしても僅か半年前に100ドル水準が正当化されていた原油価格が、底値の見えない状況に陥っていることには違和感を抱き始めている向きも多い。

例えば、NYMEX原油先物相場の場合だと(参考:原油価格をみるための基礎知識)、直近の2015年2月渡しは45.98ドルとなっているのに対して、1年後の16年2月渡しは54.65ドルで取引されている。これを相場用語では順鞘(コンタンゴ)というが、投機資金の集まる期近限月で売り圧力が強まる中、1年後の原油価格は現在よりも8~9ドル割高な状態になっている。これは、足元の原油価格が需給に対して過度の弱気見通しを反映している可能性を示唆するものであり、「下げ過ぎ」との声が聞かれ始める一因になっている。

大手金融機関の2015年原油価格予想をみても、ゴールドマン・サックスが47.15ドル、ソシエテ・ジェネラルが51ドル、バーンスタインが75ドル、シティが55ドルなど、概ね現在の価格水準を上回っている。

原油需給が緩和していることは間違いないものの、一般的にこうした暴落局面での投機売りは必要以上に増幅され易い。このため、投機色の強い割安な価格で、原油相場を買う絶好の投資チャンスが浮上し始めている可能性もある。

例えば、最近だと2008年のリーマンショック前後の原油価格は、08年7月の147.27ドルをピークに、09年2月には一時33.55ドルまで急落したが、その後は欧州債務危機の逆風にもかかわらず75~115ドル水準まで急反発している。これと同じ相場パターンが実現すれば、現在の原油相場には絶好の投資妙味が存在することになる。

画像

■敢えて「落ちるナイフ」をつかむには?

相場格言では「落ちるナイフはつかむな」と言われるように、現在の急落が続く相場環境で原油相場を買うことはリスクが高い。このナイフを怪我をせずに掴み取るには、ナイフが地面に突き刺さる(=相場が下げ止まる)のを待てば良いのであり、今後の原油相場反発が期待できると言っても、買い急ぐ必要性は乏しい。ただ、リスクとリターンは表裏一体であり、既に今後の原油相場反発を見込んで原油相場に買いを入れる動きも報告され始めている。

代表的な原油投資手法である東京商品取引所(TOCOM)の原油先物取引の場合だと、1月13日終値で1キロリットル=3万7,470円の中東産原油価格が1,000円動くと、それだけで1枚(取引単位)当たりで5万円の損益が発生することになる。現在、原油先物取引の証拠金は1枚当たりで11万5,000円が設定されており、1,000円の値動きで投資元本に対して40%以上の損益が発生することになる。昨年7月以降の原油先物相場の下落幅は3万円を超えているが、仮にこれが1万円反発するだけで投資元本に対する4倍強の利益が得られることになる。

裏返せば、予想に反して原油相場の急落が続いた場合には、瞬時に投資元本が消滅したり、追加資金投入を求められる可能性もあるハイリスク・ハイリターンの取引になる。商品先物取引が危険と言われる所以である。ただ、海外原油先物市場でも昨年末から大手ファンドが過去2週にわたって買いポジションを増やしており、原油相場で勝負を掛けている向きが増えていることが窺える。TOCOMの原油・石油製品市場でも、取組高・出来高の急増傾向が報告されており、下げ相場で大きな利益を狙う動きが続いている一方で、そのカウンターを狙って買いポジションを構築する動きが強まり始めている。

■原油ETFという投資手法

一方、もう少しリスクとリターンを引き下げて、原油相場に投資する手法も存在する。それが、原油上場投資信託(ETF)である。こちらは証券取引所に上場されているものであり、通常の株式取引と同様にレバレッジを掛けずに原油価格に投資することが可能である。

例えば、「WTI原油価格連動型上場投資信託<1671>」、「ETF WTI原油上場投資信託<1690>」、「NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投資信託<1699>」などがある。1口当たり4,000~1万6,000円程度から、原油相場に投資することが可能である。他にも、1,000円や1万円といった単位で投資できる投資信託も証券会社や銀行などの金融機関で販売されている。これらは原油先物相場のように大きなリターンを狙うことはできないが、敢えて急落が続いている原油相場の底をつかむことを狙うのであれば、1年後や2年後の原油相場反発を狙って、今から安値で原油ETFを買い拾っていくことも十分に妙味のある投資手法だと考えている。この場合だと、10%の価格変動で損益も投資元本に対して10%の変動となる。

原油価格の反発は必ず実現する前提条件とは言えないが、現在の原油価格に投資チャンスを見出すのであれば、ハイリスク・ハイリターンの原油先物取引や、低リスク・低リターンの原油ETFなどは、有力な投資選択肢になるだろう。

「人のいく裏道に道あり花の山」 

花見は人の少ない裏山にこそ美しい花が咲いているといわれるが、相場にも大勢に逆らうことに思いがけないチャンスが存在することがある。これも、相場格言の一つである。裏道に「花の山」があるのか、「崖」が存在するのか、国際原油市場では激しい勢力争いが発生している最中である。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

小菅努の最近の記事