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原油安でもガソリン価格が高い理由

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

日本の原油調達価格の指標となるドバイ原油価格の値下がりが続いている。6月下旬には1バレル=111ドル台に乗せていたのが、11月末には67.55ドルまで、高値から4割前後も急落した計算になる。世界的な石油需要鈍化の一方、シェールオイルなど非在来型の原油供給が拡大する中、石油輸出国機構(OPEC)主導の原油需給・価格コントロールが破綻したことが、原油相場の急落を招いている。

消費者目線としては、原油よりも身近なガソリン価格の値下がりが期待される所だが、現実のガソリン小売価格はそれほど大きく値下がりしている訳ではない。資源エネルギー庁の調査によると、レギュラーガソリン小売価格(全国平均)は、7月14日の1リットル=169.9円をピークに直近の11月25日時点では158.3円まで値下がりしているが、下落率だと僅か6.8%である。

もちろん、原油価格が値下がりしたからと言って、直ちにガソリン価格の値下がりが可能な訳ではない。原油市況がガソリン価格決定の最大要因であることは間違いないが、高値の時に購入した原油在庫で精製したガソリンを容易に値下げできる訳ではないためだ。他にも、国内需給要因や季節要因に基づく生産状況、石油元売やガソリンスタンドの経営状況など、ガソリン価格の決定要因は多岐にわたっている。

しかし、米国のガソリン価格は過去7ヶ月で概ね25%値下がりしており(1ガロン=3.713ドルから2.821ドル)、日本のガソリン価格の高止まりは国際的にみても目立つ状況になっている。

■原油価格だけでないガソリン価格の決定要因

その一つの要因が、税制によって原油価格動向がガソリン価格動向に反映されづらい構造になっていることだ。ガソリン税は揮発油税と地方揮発油税(かつての地方道路税)で構成されているが、これだけで1リットル=53.8円が加算されており、ガソリン価格に占める原油価格の影響はそれ程大きなものではない。

ガソリン本体価格に関しては、日本と米国と大きな違いがある訳ではない。しかし、ガソリン価格全体に占める税金の比率は、米国の12.5%に対して日本は40.0%に達しており、日本は原油価格が下落したからと言って、簡単にガソリン小売価格を値下げできる環境にはない。

ガソリン税は、揮発油税が1リットル=24.3円となっているが、租税特別措置法による暫定税率で本来の2倍の48.6円になっている。また、地方揮発油税も5.2円課せられている。更に、原油輸入段階では関税及び石油・ガス税も課せられおり、これらは原油価格が値下がりしても基本的には大きな影響はない。また、最終消費段階ではガソリン税も含んだ販売価格に消費税も課せられることになり、ガソリン小売価格は概ねその4割前後が税金で構成されている。このため、原油価格が値下がりすれば当然にガソリン価格も値下がりするが、大きな値下がりは期待できないことになる。

OPECの政策変更は、産油国から日本も含めた消費国へのボーナスとも言えるが、消費者がその全てを受け取ることができる訳ではない。ボーナスも所得税や住民税などによって金額が増減した影響が緩和されることになるが、ガソリンに関しても諸税が原油価格変動のインパクトを限定することになる。特に、今年は4月から消費税が従来の5%から8%まで引き上げられており、この増税効果だけでも1リットル=150円のガソリン価格は4.5円値上がりすることになる。この影響を相殺しようとすれば、原油価格は1割近い値下がりが求められる計算である。すなわち、原油価格が1割値下がりして、初めて消費増税前のガソリン価格環境に回帰できる状況になっているのだ。

■原油安を理由に追加緩和に踏み切った日銀

また、円安の影響も無視できない。日本は原油のほぼ全量を輸入しており、ドル建てで決算されている原油価格が値下がりしても、円安によってそのインパクトが相殺されてしまうためだ。

為替は今年後半に入ってからだけでも15%の円安(ドル高)となっており、海外原油が上述のように40%値下がりしても、輸入段階では25%の値下がりに留まることになる。実際に、東京商品取引所(TOCOM)の中東産原油価格を受け渡し期間の最も短い当限でみてみると、1リットル当たりで6月中旬の69.85円をボトムに、足元では50円前後まで下落したに過ぎない。11月は概ね55~60円水準までの下落に留まっており、既に「原油安→ガソリン価格下落」の最初の段階で、躓いていることが確認できる。

原油安は日本の消費者にとっては歓迎すべき動きだが、脱デフレを掲げる日本銀行にとっては、受け入れ難いものである。日本銀行の宮尾審議委員も、10月31日の金融政策決定会合で追加緩和を支持した理由として「原油価格の下落がより顕著になってきた」、「私自身の物価の見通しは下振れしたし、リスクバランスも経済・物価ともに下方にやや厚いという判断になった」ことを指摘している。日本銀行が原油価格下落によるデフレマインドへの転換を警戒している以上、海外原油安が国内に波及することは、日銀によって最低限度のレベルに留められることになる。今後も円安が継続する可能性が高いことを考慮すれば、ガソリン価格が大幅に値下がりするハードルは高いと言わざるを得ない。

■税制変更だとインパクトは大きいが・・・

この原油安でもガソリン価格が下落しづらい問題を解決するには、ガソリン税制変更のインパクトが大きい。ただ、2014年予算でガソリン税は所得税、法人税、消費税に次ぐ規模の2兆8,174億円に達しており、1リットル当たりでは僅かな減税額でも、国家財政へのダメージは大きく、実現は難しい。

一般消費増税のガソリン税に対する二重課税問題を解消するだけで1リットル=4.3円の値下がりが可能になるが、消費増税の議論が行われている中で、この種の議論は停滞しがちである。

3ヶ月の平均小売価格が1リットル=160円を超えた際に特例税率(25.1円)の適用を廃止する「トリガー条項」についても、2011年の東日本大震災の復興財源に充てることなどを理由に適用が停止されており、こちらも政策的なガソリン価格誘導は期待しづらい状況が続くことになる。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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