Yahoo!ニュース

ガソリン小売価格、3週連続の値上がり ~1年3ヶ月ぶりの高値~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

資源エネルギー庁が7月24日に発表した石油製品価格調査によると、7月22日時点でのレギュラーガソリン店頭小売価格(全国平均)は前週比+1.80円の157.0円となり、3週連続の値上がりとなった。

今年はゴールデンウィーク直後の5月7日に152.5円を記録していたが、ここ3週間の値上がり幅は累計で5.1円に達しており、同水準を既に5.5円も上回っている。これは、昨年4月16日以来、約1年3ヶ月ぶりの高値を更新したことを意味する。

為替市場に目を向けると、5月22日に記録した1ドル=103.74円が円安のピークとなっており、足元では100円の節目水準まで円安圧力が鈍化している。特に、6月は一時93.79円まで円高圧力が強くなっていたことを考慮すれば、単純な為替要因からは寧ろ値下げされて然るべきとも言える。しかし、ガソリン市場ではこれまでの円安分のコスト転嫁が遅れていたため、円高局面でも安易に値下がりを許容できない状態になっている。

加えて、ここにきて大きな値上げプレッシャーとなっているのが、原油価格の高騰である。国際指標となるニューヨークのウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)原油先物相場は、6月末が1バレル=96.56ドルだったのに対して、直近の7月22日時点では107.23ドルまで急騰している。7月19日に記録した高値は108.93ドルに達しており、今月だけで12.8%も値上がりした計算になる。

WTI原油は年初から概ね85~100ドルのレンジで取引されていたが、7月入りしてから明らかに水準が切り上がっていることが、原油調達コストの増加分をガソリン価格に転嫁する動きを加速させている。

画像

■原油高を支えるエジプト情勢

こうした原油価格高騰の背景にあるのは、引き続きエジプト情勢である。軍部主導のクーデーターによって暫定政権が樹立したものの、ムルシ元大統領を支持するムスリム同砲団は大規模なデモを展開し続けており、シリア型の内戦状態に突入しかねない状態になっている。

一応は、来年初めにも国民投票を実施して民意に基づく新大統領を選出する計画になっているが、そもそもムルシ元大統領もエジプト初の民主的な選挙で選ばれているだけに、「アラブの春」とは何だったのかとの失望感が強い。欧米投資家からは、「中東には民主主義は早過ぎた」といった指摘も聞かれ、同地区の地政学的リスクに対する警戒感が、改めて原油価格の下値不安を後退している。

もっとも現段階では、スエズ運河の閉鎖といった現実の供給トラブルが発生している訳ではない。エジプトの産油量減少は避けられない状況だが、国際原油供給ルートそのものが大きな被害を受けている訳でもなく、地政学的リスクのみで一方的な値上がりが続く局面は終わったと考えている。

■米国がシェール革命の影響を消化する

むしろここで大きな問題になっているのは、米国内の原油需給が急激に引き締まっていることである。「シェール革命」は米国の原油生産環境を一変させており、特にシェール層の集中する内陸部では過剰供給体制から在庫増加圧力が強くなった。いわゆる、じゃぶじゃぶの原油供給体制を招いたのである。

しかし、今年に入ってからはパイプラインや鉄道輸送網の整備が進んでいることで、シェール層で算出された原油をメキシコ湾岸の製油所に輸送するルートが確立し、漸く過剰在庫の解消に目途が立ち始めている。

米エネルギー情報局(EIA)によると、5月3日時点で3億9,551万バレルに達していた全米原油在庫が、直近の7月12日時点では3億6,702万バレルまで、僅か2ヶ月で7.2%の減少となっている。

加えて、景気回復傾向の影響から米国内のガソリン販売が好調なことで、製油所向け原油需要が例年になく堅調に推移している。自動車燃費効率の改善で今年の米ガソリン需要は前年比マイナスが確実視されていたが、直近の4週間平均だと前年同期を2.3%上回っている。

例年だと8月上旬から中旬にかけて、米製油所は稼働率を引き下げる傾向にあるため、米国内需給のタイト感は幾分か緩和される方向でみている。ただ、仮にWTI原油価格に調整色が強くなったとしても、価格転嫁の遅れている国内ガソリン価格に関しては、大きな値下がりが期待しづらい状況が続く見通しである。

■8月もガソリン価格は高い

そして、こうしたガソリン価格の上昇を支えているのが、日本国内のガソリン出荷環境も良好なことである。「アベノミクス」効果で行楽需要が堅調なことに加え、猛暑で空調使用の増加がガソリン消費量を押し上げている。また、ガソリン高に対する消費者の抵抗感も例年と比較すると抑制されており、原油高と円安というコスト増加分の転嫁が進み易い環境になっている。

もちろん、1リットル=160円台といった価格水準になれば需要サイドからガソリン価格の高騰にブレーキが掛かることになるだろうが、8月もガソリン価格は高止まりを想定しておく必要がありそうだ。引き続き150円台後半をコアレンジに、160円台乗せの可能性も想定しておく必要があると考えている。

画像
マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

小菅努の最近の記事