ヘッジファンドの撤退が加速する金市場 ~ETF残高2,000トン割れ、先物買いは100トン割れ~

金上場投資信託(ETF)の投資残高は7月8日時点で1,993.76トンとなり、2010年5月21日以来で初の2,000トン台割れとなった。昨年12月20日には過去最高となる2,632.52トンもの投資残高を記録していたが、今年は米金融緩和政策の縮小・停止見通しが金価格を強力に圧迫する動きと連動して、投機マネーの流出傾向が加速している。年初からの累計だけで既に638.16トンもの売却が行われた形になっており、「投機マネーが流出している」といった心理的な影響のみならず、需給見通しに対しても無視できない影響が生じることになる。

足元では金価格の急落傾向に一定のブレーキが掛かっているが、7月入りしてからの6営業日のみで既に51.66トンもの売却が行われており、金価格動向に関係なく金ETF売却の動きが加速していることが明確に確認できる。6月の株安局面でも金ETF売却の動きには何ら変化が生じておらず、グレート・ローション理論による株式市場への資金シフトといった理解では説明が付かない状況になっている。もちろん、配当や金利収益を生み出す資産に対する投資需要が増大していることは否めないが、金ETF売却の動きは金投資に対するより根源的な失望感が影響しているとみるべきだろう。

金ETFは2003年にオーストラリアで上場されたのがスタートだったが、その後は12年まで年間ベースでは10年連続で買い越し状態になっていた。昨年の場合は279.0トンもの投資需要が確認されているが、今年は現時点で既に差し引き917トン(=279+638トン)もの需給緩和圧力が発生している計算になる。これは昨年の新産金の32%に相当する規模であり、これだけの需給緩和圧力を年後半にどのようにすれば相殺できるのか、金相場は需給面でも極めて困難な問題に直面することになる。この問題は、現在進行形で深刻化しているものであり、少なくともETF売却の動きに歯止めが掛かるまでは、金価格のボトム確認には慎重姿勢が求められる。

価格低下でアジア地区を中心とした現物需要は旺盛といっても、現物投資需要が昨年の1,246.7トンから倍増するようなシナリオを描くのは難しい。また、中央銀行の金購入も前年比ではほぼ横ばい状態が報告されており、金相場急落の目立った効果は確認できない。今年に関しては、金ETF市場で発生している強力な需給緩和圧力を吸収するのは、もはや不可能なレベルに到達し始めている。

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■先物市場でファンドが売り越しに転じる可能性

一方、ニューヨーク金先物市場ではヘッジファンドの撤退が急ピッチで進行している。

米商品先物取引委員会(CFTC)が7月8日に発表した建玉報告(COTレポート)によると、直近の7月2日時点でファンドのネットロング(=買いポジション-売りポジション、買い越し量)は重量換算で64.54トンに留まっており、ついに100トンの大台を割り込んだ。これは05年2月15日の週以来で初めてのことである。

ファンドのネットロングは、今年4月16日の400.87トンをピークに11週連続の減少となっており、2002年8月13日の週から11年近くにわたって維持されてきた買い越し状態も終わりに近づき始めている。これは、ファンド業界が金価格の上昇シナリオに見切りを付けるステージが最終段階に差し掛かっていることを意味し、「通貨としての金」、「安全資産としての金」が輝いた一つの時代の終わりに近づいていることが強力に印象付けられる。

2009年11月24日には過去最高の815.94トンを買い越しており、当時の年間産金量の30%以上をファンドが先物買いする事態になっていた。米同時テロ事件、サブプライム・ローン問題、そして大規模な金融緩和など次々とドルの通貨価値を毀損する動きが展開される中、ドルの実効レートが低下する動きとほぼ軌道をともにしながら、「ドル売り・金買い」というオペレーションが行われてきた。

もちろん、単純に金価格の上昇を受けて短期値幅取り狙いの金買いが膨らんだ影響も否めないが、2009年11月24日には過去最高の815.94トンを買い越しており、当時の年間産金量の30%以上をファンドが先物買いする事態になっていた。

一方、その後は大規模な金融緩和にもかかわらずインフレ率が抑制される一方、新興国経済の減速でコモディティ価格の下落傾向が鮮明になる中、ドル実効レートの下落傾向に歯止めが掛かり、金保有のメリットが急激に低下する形になっている。ファンドは金価格上昇期待を急速に縮小させており、このままのペースで買い玉縮小・売り玉拡大の動きが継続すると、7月中に売り越しに転換するリスクも否定できない状況になる。

米量的緩和政策の縮小・停止が議論されているとは言っても、過去最大規模まで膨れ上がった米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシート(保有資産)が直ちに縮小に転じる訳ではなく、ドル紙幣の増刷政策が巻き戻されるまでにはまだ多くの時間が必要とされる。このため、今年に入ってからの金相場急落には全く違和感が存在しない訳ではないが、金利・ドル相場を取り巻く環境がいち早く正常化に向かう中、金市場に資金を繋ぎ止め続けるだけの魅力が失われつつある。

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■売り圧力の増大が高める反発リスク?

当然に、世界経済に突発的なトラブルなどが発生する事態になれば、再び「安全資産」としての金が買われる余地は十分にある。しかし、中国短期金融市場の混乱、ポルトガルの政局とその先にある欧州債務危機の再発といったリスク環境を短期間で消化する一方、7月5日に発表された6月米雇用統計は予想以上の改善を示すなど、改めて金相場を買い進むシナリオが描けない状況にある。

アフリカなどの高深度の鉱区を中心に生産コスト割れを試すステージに到達する中、ここからのダウンサイド・リスクはそれ程大きくないと考えている。12年の世界産金コストは平均で1オンス当たりで1,200ドル台前半、今年は平均で1,300ドル近くまで上昇する可能性が高く、ここからの一段安には従来とは違ったエネルギーが必要とされる。

ただ、プラチナ相場が長期にわたって生産コスト割れを強いられた懸念もあるだけに、「平均生産コスト割れ=金相場のボトム確認」と結論付けるのは時期尚早である。少なくとも、ボトム確認と反発との間には依然として大きな距離が残されている。

そして、現状で最も有力な反発シナリオとなるのは、この強力な売り圧力を利用した自立反発である。先物市場におけるファンドの売り玉は過去最大規模にまで膨れ上がっており、何らかのきっかけさえあればショートカバー(買い戻し)が入るだけで50ドル、100ドル幅の反発は正当化できる状況にある。売り圧力が増大すればする程に、反発した際の値幅が大きくなるリスクが高まることになる。

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