元碁聖の坂井秀至八段、医師に転身――棋士のセカンドキャリアを考える

囲碁棋士は19×19=361路の盤上に人生をかける(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 8月16日、関西棋院所属の囲碁棋士、坂井秀至八段(46)が医師に転身するため9月1日から無期限の休場をすることが発表された。坂井八段は京都大学医学部卒業で医師免許を取得してから飛付五段でプロ入り、2010年には七大タイトルのひとつ碁聖を獲得した。ほかにも名人リーグ9期、本因坊リーグ1期在籍の実績を持つトップ棋士である。

18年間トーナメントプロとして活躍

 野球やサッカーなど40代半ばを超えプロとしてプレーすることが少ないスポーツの世界ではセカンドキャリアを考えることはごく普通だが、選手寿命の長い「頭脳スポーツ」の代表格である囲碁・将棋のプロは引退後も多くは専門知識を生かしアマチュアの指導や執筆活動に携わる人がほとんどだ。

 坂井八段の場合は子供のころからトップアマとして日本ばかりでなく世界を舞台に活躍していた。また学業にも秀でていたため灘中学・高校、京都大学医学部を卒業後、医師国家試験に合格した。

 研修医としての配属が決まった2001年、28歳の時に棋士編入試験を受け4連勝で合格。棋士の道を選び18年間プロとして活躍した。

 休場理由のコメントは「近年自分の納得できるような内容の碁が打てなくなり、タイトル獲得を目指して対局に取り組むことが難しくなりました。今後は若い頃に一度目指した医師の道に進む予定です。」というもの。

 ほかのスポーツの世界なら18年もトップレベルで争ったことは十分称賛に価すると思うし、今回の坂井八段の決断は画期的なことだと筆者は支持したい。

チェスの世界では兼業がごく普通

 世界で最も競技人口が多く約5億人といわれる頭脳スポーツ・チェスの世界ではトーナメントだけで生計を立てているトッププレーヤーは少ない。約2億円~数千万の賞金を獲得する世界トップ10以外のグランドマスター(トップ棋士の称号)はチェスの指導者やコーチ、解説者のほか、学者や弁護士、政治家、IT関連の開発者などまったく別の職業についている人もいる。

 1927年に世界チャンピオンになったキューバ伝説のプレーヤー、ホセ・ラウル・カパブランカ(1888~1942年)はキューバ政府から任命を受けた外交官でもあった。

新天地に挑む棋士は今後増える流れか

 AIの急速な進化やトップレベルの若年化もあり、50代、60代の棋士がトーナメントやリーグの上位で頑張り続けることは難しくなっている。棋士の高学歴化が進んでいる昨今、副業やセカンドキャリアを積極的に模索する人は増えていくだろう。

 「生涯一棋士」として年齢の壁を超える努力を続けることも素晴らしいけれど、信念を持って進むべき道を見つけられたら、新天地に挑むことは有力な「次の一手」であろう。

 坂井八段の医師としての今後の活躍に期待したい。